郷土料理 — 2026.07.29 WED NO.031 / TSUGINOTE LOCAL

「餃子のまち」の始まりは、一つの統計だった
その数字は、何を数えているのか

屋外の作業場で、地域の人たちが集まって手で食べものを包んでいる様子

要点:宇都宮が「餃子のまち」を名乗る発端は、1990年12月に市の中堅職員研修グループが、家計調査で餃子の購入金額が日本一だという数字に目をつけたことでした。マップ、餃子会、商標はその後です。ではその数字は何を数えていたのか。家計調査の「ぎょうざ」に含まれるのは生餃子・焼餃子とテイクアウト専門店の持ち帰りで、冷凍食品や中華料理店等の持ち帰りは含まれず、店内で食べる分は別分類の「外食」に入ります。2025年の順位は1位浜松市4,046円、2位宇都宮市3,575円、3位宮崎市3,418円。数字の中身と、その数字を離れて残ったものを見ていきます。

JR宇都宮駅の西口、ペデストリアンデッキの上に餃子の像が立っています。ビーナスが餃子の皮に包まれている、という説明で伝わるかどうか心もとない造形の像で、宇都宮を訪れた人の多くがまずここで写真を撮ります。まちの入口に食べもののモニュメントが据えられているのは、そのまちがその食べものを名乗ることを決めたということです。

宇都宮は「餃子のまち」です。ただ、その名乗りが何を根拠に始まったのかを辿ると、餃子そのものより先に、一枚の統計表が出てきます。今回は「宇都宮の餃子はおいしい」という話ではなく、宇都宮を餃子のまちにした「日本一」とは何の日本一だったのかを、定義・標本・期間の三点に分けて確かめます。

発端は、市職員の研修発表だった

協同組合宇都宮餃子会が公式サイトに載せている沿革の、いちばん最初の項目が1990年12月です。そこにはこう記されています。宇都宮市中堅職員研修グループによる研究発表。宇都宮の名を「餃子」を通してPRする方法として、宇都宮が餃子日本一であることなどを発表した。根拠として挙げられているのは、当時の総務庁統計局の家計調査年報で、宇都宮の1世帯当たり餃子の年間購入金額が日本一を続けているという事実です。

ここから先の展開は速いものでした。翌1991年10月、市の職員研修の提言を受けて観光協会が市内23店を紹介する餃子マップを作成。1993年7月には市内の餃子専門店など38店舗が集まって任意団体「宇都宮餃子会」が発足し、会長には現在の宇都宮みんみんの伊藤信夫が就いています。1999年に第1回の宇都宮餃子祭りが開かれ、2001年には協同組合として認可、2002年には地域ブランドとしての「宇都宮餃子」が商標登録されました。

順番を並べ直すと、統計 → PR案 → マップ → 組織 → 祭り → 商標です。名物が有名になったから統計に表れたのではなく、統計を見つけた人が名物を立ち上げにかかった。地域ブランドの作り方として、これはかなり珍しい順序だと思います。

一つめ:何を数えているのか

では、その根拠となった数字は何を数えているのでしょうか。総務省の家計調査には「ぎょうざ」という品目があり、都市別の年間支出金額が毎年集計されています。この品目に何が入り何が入らないかは、家計調査を毎年追いかけている浜松市の報道発表が注記としてはっきり書いています。

家計調査「ぎょうざ」に含まれる含まれない
スーパー等で売られている生餃子餃子の冷凍食品
スーパー等で売られている焼餃子中華料理店等のテイクアウト
餃子のテイクアウト専門店の持ち帰り店内で食べる分(家計調査では別分類の「外食」に入る)

つまりこの数字が測っているのは、「家で食べるために買った、冷凍ではない餃子」への支出です。専門店のカウンターに座って焼きたてを頼む食べ方は、この品目には一円も乗りません。宇都宮の餃子文化を語るときによく出てくる「食べ歩き」も、来らっせで日替わりの店を食べ比べる楽しみも、統計上はここではなく「外食」の側にあります。

誤解のないように書き添えると、これは家計調査が不正確だという話ではありません。家計調査は買い物の記録を積み上げる調査で、品目の線引きは調査全体の一貫性のために引かれています。ずれているのは統計ではなく、「餃子消費量日本一」という言葉から私たちが思い浮かべる光景の側です。

二つめ:誰を数えているのか

浜松市の報道発表は、家計調査を「全国約9千世帯を対象とし、家計の収入・支出・貯蓄・負債等を毎月調査」するものと説明しています。全国で9千世帯ですから、県庁所在市ごとの内訳になれば、一つの市を支える標本は決して大きくありません。ある市の数字が前年から数百円動いたとき、それがまちの食習慣の変化なのか標本の揺れなのかは、単年の数字だけでは切り分けられません。

総務省自身の扱い方が、その事情を物語っています。統計局が品目別の都道府県庁所在市ランキングを公表するとき、使っているのは単年ではなく3年平均です(現在公開されているのは2023年〜2025年平均)。年ごとの順位も別途公表されていますが、まちの傾向を見るなら平均を見てほしい、という設計になっています。

三つめ:いつ数えているのか

単年で見るとどうなるか。浜松市が公表している過去10年分の上位3市の推移から、各年の1位だけを並べてみます。

家計調査「ぎょうざ」支出金額 ─ 各年の1位 浜松市 宇都宮市 宮崎市 20152016201720182019202020212022202320242025 出典:浜松市報道発表(令和8年2月6日)掲載の総務省家計調査 年間データより作成。●がその年の1位。

11年のうち浜松市が7回、宇都宮市が2回、宮崎市が2回。宇都宮市は2010年まで15年連続で1位でしたが、2011年に浜松市が初めて1位になり、以降は入れ替わりが続いています。2013年、2017年、2019年には宇都宮市が1位を取り返してもいます。1位という単年の結果は、思っているよりずっとよく動く数字です。

2026年2月に公表された2025年分は、1位が浜松市の4,046円、2位が宇都宮市の3,575円、3位が宮崎市の3,418円でした。浜松市はこれで3年連続の1位です。参考として、上の3市について2023〜2025年の3年を本サイトで単純平均すると、浜松市が約4,051円、宮崎市が約3,478円、宇都宮市が約3,192円になります(総務省が公表する3年平均ランキングとは算出方法が異なる可能性があるため、あくまで目安として扱ってください)。

ここまでを踏まえると、「餃子消費量日本一」という言い方には二つのずれがあります。一つは、支出金額であって消費量そのものではないこと。もう一つは、家で食べる分の買い物であって、店で食べる分を含まないことです。宇都宮市の公式サイトも「年間購入額日本一」と、購入額という言葉で書いています。

それで、宇都宮には何が残ったか

発端の数字が動いたのなら、まちの側はどうなったのか。ここがこの話のいちばん面白いところだと思います。

協同組合宇都宮餃子会は、公式サイトの概要欄で加盟145店(2023年5月現在)と記しています。同じサイトの店舗検索に並んでいるのは80店台で、集計の時点や数え方の違いによるずれと思われますが、いずれにしても、38店舗で始まった任意団体が数十年かけて二桁から三桁の規模になったことは動きません。組合は自ら「日本で唯一の“餃子”協同組合」と名乗り、直営店の運営、祭りの運営、商標「宇都宮餃子」の管理までを事業として持っています。

直営の「来らっせ本店」では、加盟30店舗以上の餃子を日替わりで食べ比べられます。宇都宮餃子祭りは1999年の第1回が来場者2万人で、2019年の第21回は17万人。宇都宮市の公式サイトは、毎年11月の第1土曜・日曜に開催し2日間で約15万人以上が訪れると記しています。

駅前の餃子像にも履歴があります。1994年2月にJR宇都宮駅東口に設置され、2008年9月には移転作業中の事故で破損。修復されて同年11月に西口コンコース下へ移り、2014年10月に現在の西口ペデストリアンデッキ上へ再移設されました。一度割れた像を捨てずに直して据え直したという事実が、このまちの餃子への構えを、統計より雄弁に示している気がします。

統計は毎年動きます。動かなかったのは、店と、組合と、祭りと、像のほうでした。


数字ではなく、皿の話をするなら

最後に、食べる側の実務的な話を一つだけ。宇都宮市の公式サイトは、市内の餃子について焼・揚・水などの種類があり、店舗によって大きさ、素材、皮の厚さや熟成度、包み方、はねの大きさ、つけだれが異なると書いています。つまり「宇都宮餃子」という単一の味は存在しません。統計の順位が入れ替わっても、この幅の広さのほうは順位で測れません。

だから確かめ方も一つだけです。来らっせ本店で、その日出ている複数の店の餃子を並べて頼み、皮の厚さとつけだれの違いを自分の舌で比べてみてください。日替わりなので、出店している店は日によって変わります。営業日・営業時間・出店状況は変わりますので、行く前に宇都宮餃子会の公式情報でご確認ください。

出典:協同組合宇都宮餃子会宇都宮餃子会とは(概要・沿革)(1990年12月の市中堅職員研修グループによる研究発表、1991年の餃子マップ、1993年7月の任意団体発足38店舗と初代会長、2001年の協同組合認可、2002年の地域ブランド商標登録、加盟145店=2023年5月現在、餃子祭りの来場者数、餃子像の設置・破損・移設の各年月、来らっせ2店舗)/宇都宮市餃子のまち(2024年10月24日更新。年間購入額が2010年まで15年連続日本一・2013年/2017年/2019年も1位、第14師団に由来するとされる諸説、餃子祭りは11月第1土日で2日間約15万人以上、来らっせ本店は30店舗以上を日替わり、焼・揚・水など店ごとの違い)/浜松市報道発表「総務省家計調査『ぎょうざ』部門 浜松市の餃子購入額が3年連続日本一」(令和8年2月6日。2025年は1位浜松市4,046円・2位宇都宮市3,575円・3位宮崎市3,418円、過去10年の上位3市、家計調査は全国約9千世帯対象、「ぎょうざ」品目に含むもの・含まないものの注記)/総務省統計局家計調査 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2023年〜2025年平均)(ランキングが3年平均で公表されていること)。3年平均の概算値は本サイトによる単純平均で、総務省の公表値とは算出方法が異なる可能性があります。統計値は各公表時点のものです。店舗の営業状況・出店状況は変動しますので、お出かけの際は公式情報でご確認ください。
EDITOR'S NOTE — ミノル:産地や作り手の話を書くとき、私はいつも数字から入ります。今回はその数字自身が主役でした。市の職員が研修で統計表を見つけ、そこから店が集まり、商標を取り、像を立て、割れた像を直した。数字は発端にすぎず、続けたのは人のほうです。順位が2位でも「餃子のまち」であることは揺らいでいません。それが答えだと思います。