全国の市区町村の行革事例が500件、無料で読めます。真似できるかどうかは、事例の資料ではなく別の場所に書いてありました。
要点:愛媛県が隔年で開いてきた「行革甲子園」の8回目が、2026年8月28日に松山で開かれます。特徴は大会そのものより、その残り方にあります。応募のあった事例はすべて県のホームページに載り、これまでの7回ぶんが500事例のデータベースとして無料で読める状態にある。審査の軸は3つで、うち1つは「他の自治体に広がる取組か」を見ています。ところが、よそのまちが「うちでもできるか」を判断するのに要る数字は、表彰の資料のほうにはあまり書かれていません。前回2024年ぶんを読み比べると、それは別のところに置かれていました。
8月28日の金曜日、松山市民会館の中ホールで「行革甲子園2026」が開かれます。12時30分から17時まで。全国の市区町村が行政改革の取組を持ち寄って発表し、表彰する大会で、愛媛県が平成24年度から隔年で開いてきました。今回で8回目になります。
募集要項によれば、当日発表するのは「6団体程度」。1団体あたり12分程度のプレゼンテーションを行い、その後に審査と表彰式があります。特別企画として官民共創事例の紹介が予定されていますが、要項の段階では「調整中」と書かれていました。
大会の名前だけ見ると勝ち負けの話に見えます。ただ、県自身がそう位置づけていません。募集要項の趣旨にはこう書かれています。
「行革甲子園」は賞を競うことが目的ではなく、自らの取組を全国に横展開し、また、全国の優良事例を自らの取組に活用することが狙いであり、いわば「地方の、地方による、地方のため」の取組です。
(愛媛県「行革甲子園2026」募集要項)
この位置づけは、応募の受け付け方に表れています。要項は「事例提出のみの参加を希望するエントリー(審査を希望しないもの)」も受け付けると明記しています。表彰を狙わず、資料だけ出してもいい。そして応募のあった全ての取組事例は、審査の対象になったかどうかにかかわらず県のホームページに掲載されます。
7回ぶんが、500件たまっている
その結果として残っているのが、県が公開している応募事例のデータベースです。分野別と都道府県別の2通りの一覧があり、掲載されているのは500事例。事例名をクリックすると概要版・詳細版のPDFが開き、当日発表された事例についてはプレゼンの動画も見られます。登録も費用も要りません。
500という数は、7回ぶんの積み上げです。平成24年度と26年度は愛媛県内の市町を対象にした県内版で、平成28年度から全国の市区町村に対象を広げました。直近の2024年大会(令和6年度)には、35都道府県の78市区町村から97事例の応募がありました。
自治体の担当者が他所の事例を探すとき、最初にぶつかるのは「実際にやった側の資料が読めない」ことだと思います。報道記事は結果の要約になりがちで、省庁の事例集は選ばれたものだけが載る。応募した全件が原資料つきで置いてあるアーカイブは、それ自体が使える資源です。
審査の軸は3つ。うち1つだけが、よそを向いている
要項が示す評価のポイントは「創(そう)」「効(こう)」「種(しゅ)」の3つで、これにプレゼンテーションの伝わりやすさが加わります。定義は次のとおりです。
| 軸 | 要項の定義 | 見ている先 |
|---|---|---|
| 創(そう) | 創意工夫あふれる取組か、先進性・独創性があるか | その団体の中 |
| 効(こう) | 費用対効果の高い取組か | その団体の中 |
| 種(しゅ) | 他にアイデアの種を提供する取組か(他の自治体に広がる取組か) | その団体の外 |
3つのうち、「種」だけが応募団体の外側を見ています。しかも括弧書きで「他の自治体に広がる取組か」と言い換えられている。主催者が横展開の可能性そのものを採点項目に置いている、ということです。
そこで気になるのは、読む側がその「広がるかどうか」を自分で確かめられるか、です。他所の取組を自分のまちに置き換えるとき、必要になるのは着想ではなく、導入までにかかった時間、費用が誰にいくら発生するか、動かすのに何人要るか、といったところでしょう。前回大会の公開資料で、そこを探してみました。
2024年に発表された7団体
まず、前回の顔ぶれです。97事例のうち書類審査を通過して発表したのは7団体でした。
| 市区町村 | 都道府県 | 取組事例名 | 表彰 |
|---|---|---|---|
| 福知山市 | 京都府 | 福知山市廃校Re活用プロジェクト | グランプリ |
| 湯沢町 | 新潟県 | デジタル技術を活用した労働環境提供・効率化事業 | 審査員長特別賞 |
| 余市町 | 北海道 | 産官学による広域防災連携が取組むランニングストック方式による防災備蓄の推進 | 審査員長特別賞 |
| 山形市 | 山形県 | 救急DXで市民の命を救う | 個別賞 |
| 豊根村 | 愛知県 | 村職員採用方法を奇抜に見直し ~試験に「ご当地検定」導入~ | 個別賞 |
| 今治市 | 愛媛県 | 全国初!地方版空き家バンクシステムと全国版空き家バンクシステムとのAPI連携による移住の促進 | 個別賞 |
| 北九州市 | 福岡県 | 職員一人ひとりがイノベーター DXで実現する未来の働き方 ~ローコードツールを活用した全庁的なDXの推進~ | 個別賞 |
並べてみると、廃校の再活用、単日雇用のマッチング、備蓄食の持ち方、救急搬送の記録、職員採用の試験科目、空き家バンクのシステム連携、庁内のローコード開発と、分野がまったく揃っていません。共通するのは規模でも先進性でもなく、「自分たちの持ち物の使い方を変えた」という点くらいです。
再現できるかの数字は、質問への回答に出ていた
県は発表事例の概要版・詳細版のPDFに加えて、当日の参加者オンライン投票の際に寄せられた質問と、各団体からの回答を抜粋して公開しています。表彰の理由でも、事業の説明でもない。参加していた自治体職員が、その場で聞きたかったことです。
湯沢町への質問には、他の自治体に展開するスケジュールや基準を尋ねるものがありました。回答はこうです。
湯沢町は、導入決定から契約、スタートまで3か月程度でできました。国の補正予算でついた交付金を活用することが考えられるので、いつ募集がきてもいいように、前もって事業者との打合せや自治体内のコンセンサスを得ておくといいと思います。
(新潟県湯沢町の回答/愛媛県公開分)
3か月という所要と、その3か月を成立させる前提(事前の打合せと庁内合意)が同じ回答に入っています。交付金の募集が出てから動き始めた場合の話ではない、と読めます。
山形市の救急DXには、消防OA(消防本部の業務システム)との連携がどのメーカーでも可能か、費用はかかるかという質問が来ています。
技術的な面では、どの消防OAメーカーでも連携は可能ですが、現時点では全てのメーカーで費用が発生します。連携できるよう双方のシステム構築が必要となるためです。
(山形県山形市の回答/愛媛県公開分)
「できる」と「ただで済む」を分けた回答です。同じ市はOCRの精度についても、氏名の読み仮名でいわゆるキラキラネームは修正が必要になると答えており、うまくいっている部分だけを述べていません。
豊根村の採用試験の見直しには、他の市町村や国全体で運用するときの課題を尋ねる質問がありました。回答の末尾はこうなっています。
なお、試験担当者の負荷は豊根村では減少していますので、費用、人員確保は考慮不要と考えています。
(愛知県豊根村の回答/愛媛県公開分)
「豊根村では」と限定が付いています。人口規模の違う団体にそのまま当てはめられるとは言っていない。
北九州市は、各部署にIT担当を置いているかという質問に対して、各課から2名、全庁で約700名を「DX変革リーダー」として選任していると答えました。ローコードツールを配ったという話ではなく、700という人数が先に要る、という情報です。余市町は防災備蓄のコストが3分の1になった理由を問われ、長期保存の備蓄食でなく市販の食品を選べるようになったため「端的には備蓄食の単価が1/3以下となったからです」と答えています。
期間、費用の発生先、必要人員、コスト削減の原因。よそが「うちでもできるか」を測るのに要る4種類が、いずれも発表資料の外側に置かれていました。事例集を先進性の展示として読むと、この部分は目に入りません。
公表されていないことも、はっきりしている
県は募集要項の参考欄で、発表事例を参考に類似の取組が他の自治体で取り入れられるなど「優良事例の波及効果が認められています」と書いています。ただ、どの事例がどこへ何件広がったのかを一覧にした資料は、私が探した範囲では見つかりませんでした。質問と回答も「抜粋」と明記されています。効果があったという記述と、それを外から検証できる材料とは、別ものです。
2026年大会についても、現時点で分かっていないことがあります。募集は3月2日から5月15日まで行われ、1次審査通過団体の決定・通知は6月末頃という日程が要項に書かれていますが、今年の応募件数と、発表する6団体程度の顔ぶれは、本稿執筆時点(2026年8月5日)では公表を確認できていません。一般の参加申込の方法も、2026年ぶんは確認できませんでした。2024年は全国の自治体職員、公務員を目指す大学生、自治体事業に関わる民間企業などが参加しています。
確定している当日の枠組みは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日時 | 令和8年8月28日(金)12:30〜17:00 |
| 場所 | 松山市民会館 中ホール(予定) |
| 発表 | 6団体程度(1団体12分程度) |
| そのほか | 特別企画=官民共創事例の紹介(調整中)、審査、表彰式 |
| 発表団体の旅費 | 主催者負担(各団体2名以内・県の規程に基づく額等の条件あり) |
発表団体の旅費を主催者が持つのは、応募のハードルを下げる設計だと思います。小さな団体ほど、出張旅費の確保が最初の関門になるためです。前回のグランプリは京都府福知山市でしたが、過去の受賞団体には愛知県豊根村や岡山県西粟倉村のような小規模団体も並んでいます。
読む側の見極め
「種」が評価されるのは8月28日です。その日に決まるのは、種があるかどうかまで。芽が出たかどうかは、大会の側では追いかけられていません。自治体DX関連の事例が増えるほど、成否は着想ではなく、既存システムとの接続費用や職員の頭数といった地味な条件に寄っていきます。
だから、このデータベースを使うなら、概要版のPDFで止めないほうがよさそうです。前回大会のページには、同じ悩みを持つ職員が投げた質問と、答えられる側が限定つきで返した回答が残っています。500件の事例そのものより、そちらのほうが判断材料としては短くて具体的でした。今年ぶんの質問と回答が公開されるかどうかは、大会後に確かめたいところです。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.05
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