移住・関係人口 — 2026.09.11 NO.106 / TSUGINOTE LOCAL

静岡市が、首都圏で働く会社員向けの1泊2日プログラムの参加者を、8月末に締め切りました。この枠組みを使える政令指定都市は、いまのところここだけです

古い木造家屋の中で、年齢の異なる地元の人たちが床板を剥がしながら改修作業をしている様子

要点:静岡市は、首都圏企業に勤める会社員が地域と継続的に関わる「静岡市二地域居住越境学習プログラム」の第2次募集を、2026年8月31日に締め切りました。運営する「静岡市二地域居住促進コンソーシアム」(代表:株式会社静岡銀行、構成員:株式会社アドレス・静岡市・静岡県)は、国土交通省「二地域居住先導的プロジェクト実装事業」に、政令指定都市として全国で初めて採択されています。市はすでに「静岡市特定居住促進計画」を2026年6月4日に策定し、用宗エリアと蒲原エリアを拠点に位置づけました。次はリピーター向け現地研修が11〜12月、成果発表会が2027年1月です。

「二地域居住等支援法人」——役所の文書にこの言葉が並ぶと、身構えてしまう人も多いはずです。平たく言えば、地域と都会を行き来する暮らしを手伝う、市町村に指定された会社やNPOのことです。静岡市では、この制度を使った「静岡市二地域居住越境学習プログラム」の第2次募集が、2026年8月31日に締め切られました。対象になっているのは静岡市の住民ではありません。首都圏の企業に勤め、テレワークのように働く場所や時間を自分である程度決められる会社員です。

静岡市が二地域居住の相手として名乗りを上げた背景には、立地があります。首都圏から東海道新幹線で約1時間。日帰りも十分できる距離でありながら、これまでは短期の滞在や観光で終わり、地域との交流や継続的な関係構築に至らないケースが多かった、と市は説明しています。「滞在」から「交流」へどうつなげるかが、静岡市にとっての課題でした。

政令指定都市として全国で初めて、の中身

このプログラムを動かしているのは「静岡市二地域居住促進コンソーシアム」という組織です。代表は株式会社静岡銀行、構成員は株式会社アドレスと静岡市、静岡県。このコンソーシアムが採択されたのが、国土交通省「二地域居住先導的プロジェクト実装事業」(令和7年度補正予算による1次公募)です。静岡市の公式サイトは、この採択を「政令指定都市として全国で初めて」と説明しています。

国土交通省が公表した採択一覧によると、1次公募で選ばれたのは全国で9件、交付額は合計で約9,000万円。9件のうち1件が静岡市のコンソーシアムで、もう1件は同じ静岡県内の東伊豆町でした。ひとつの県から2件選ばれたのは、9件のうちこの静岡県だけです。この実装事業を含む「二地域居住」全体の推進母体である全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームには、744の自治体と316の民間団体、合計1,060団体が会員として参加しています(2025年4月1日時点、国土交通省資料による)。この規模の看板の下で、静岡市の取り組みは9件のうちの1件として動いています。

静岡市東伊豆町
構成員静岡県・静岡市・静岡銀行・アドレス静岡県・東伊豆町・東急不動産・東海旅客鉄道 等
取組の柱首都圏企業の社員による越境学習から、なりわい・住まいへの移行交通費・住居費の軽減と、二地域居住者認定制度の整備

「越境学習」という言葉も、聞き慣れない人には距離があります。人材育成の分野で使われてきた言葉で、平たく言えば、ふだんの職場や肩書きを離れた場所に身を置くことで、新しい視点やスキルを持ち帰る学び方のことです。静岡市のプログラムは、この越境学習の枠組みを、二地域居住への入り口として使っています。コンソーシアムの代表を地方銀行の静岡銀行が務めている点も、翻訳が必要なところです。地域の企業と、その企業が抱える人手不足や後継者不足の情報を最もよく知る立場にあるのが、地元の金融機関だからです。参加した会社員をどの企業や活動につなぐか、そのマッチングの土台に銀行の取引先ネットワークが使われる設計です。

「特定居住促進計画」は、すでに敷いてあった

この越境学習プログラムには、法律上の下敷きがあります。市町村が二地域居住の拠点となる区域を定める「特定居住促進計画」です。静岡市は2026年6月4日、この計画を策定しました。計画期間は2026年度から2028年度まで。拠点として指定されたのは、JR用宗駅周辺の「用宗エリア」と、JR新蒲原駅周辺の「蒲原エリア」の2区域です。あわせて、地域のNPOや企業を市が指定する「特定居住支援法人」に、株式会社アドレスと株式会社静岡銀行が2026年5月26日付で指定されています。

計画づくりの過程で、市は2026年5月15日から29日まで、計画案への意見を市民から募集しました。結果は、提出件数0件。制度の骨組みは先に整った一方で、住民の反応はまだ数字としては現れていません。

参加した人は、何をするのか

越境学習プログラムの流れは、オリエンテーション、1泊2日の現地研修、事後研修、アンケートの4段階です。第2次募集が締め切られたいま、次に動くのは、初回プログラムの参加者と受け入れ企業の双方が希望した場合に実施される「リピーター現地研修」で、時期は2026年11月から12月。その成果を振り返る「オンライン成果発表会」は2027年1月に予定されています。狙いは、一度きりの滞在で終わらせず、参加者が静岡市内の企業や活動と継続的に関わる「第二の所属先」を見つけることです。


意見募集に集まった声はゼロ件でした。それでも、計画と支援法人と実証プログラムという骨組みは、すでに動き出しています。政令指定都市として初めて選ばれたこの仕組みが、他の大都市にも広がる型になるのか、それとも静岡市だけの実験で終わるのか。11月からのリピーター研修に、初回参加者のうち何人が戻ってくるかで、輪郭がもう少しはっきりするはずです。

出典:静岡市公式サイト「二地域居住の推進(特定居住促進計画)」https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2934/s013131.html(更新日2026年8月6日、2026年9月11日確認)/国土交通省「二地域居住先導的プロジェクト実装事業採択一覧(R7補正予算)」https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/chisei/content/001996559.pdf(2026年9月11日確認)/国土交通省国土政策局「二地域居住等の促進について」(令和7年5月)https://www.soumu.go.jp/main_content/001009896.pdf(法律の背景・プラットフォーム会員数の記載、2026年9月11日確認)/パーソルテンプスタッフ株式会社プレスリリース(2026年4月30日、同じ1次公募の採択事例として公募時期の裏付けに参照)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000469.000071141.html(2026年9月11日確認)。交付額・スケジュール・参加条件は今後変更されうる。
EDITOR'S NOTE — メグル:「対象外」「参酌」と同じで、二地域居住の制度もお役所言葉が幾重にも重なっています。「特定居住促進計画」「特定居住支援法人」「二地域居住先導的プロジェクト実装事業」。似た言葉が並ぶと、それだけで読む気力が削がれます。それでも一枚ずつめくると、やっていることは、県境をまたいで働く人に住む場所と仕事の接点を用意することでした。政令指定都市で最初にそれを試したのが静岡市だった、という事実だけは、はっきり覚えておきたいと思います。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.11
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