季節 — 2026.07.22 Wed NO.012 / TSUGINOTE LOCAL

「星がよく見える」は感覚ではなく、認証がある。日本の星空保護区は4か所だけ

「星がよく見える」は感覚ではなく、認証がある。日本の星空保護区は4か所だけ

要点:「あの土地は星がきれい」という言い方は主観に聞こえますが、実は世界共通のものさしがあります。米国の民間団体ダークスカイ・インターナショナル(旧・国際ダークスカイ協会/IDA)が2001年に始めた「星空保護区(International Dark Sky Places)」で、光害対策を満たした土地だけが認定されます。日本の認定地は、沖縄・西表石垣国立公園、東京・神津島、岡山・美星、福井・南六呂師の4か所だけ(2026年7月時点)。それぞれ「暗さの作り方」が違います。夏は天の川がいちばん見やすい季節。訪ねる前に確かめたいことまで整理しました。

旅先の夜、ふと空を見上げて息をのんだ経験は、きっと誰にでもあります。ただ、その感動を人に伝えようとすると、途端に言葉が頼りなくなる。「すごく星がきれいだった」——それはあなたの目がよかったのか、たまたま空気が澄んでいたのか、それとも本当にその土地が暗いのか。感覚だけでは、区別がつきません。

ところが、この「暗さ」には国際的な認証制度があります。空がどれだけ人工の光に汚されていないか、そのために地域がどんな手を打っているか。それを審査してお墨付きを与えるのが「星空保護区」です。星がきれいかどうかは、実は測れる。そう知ると、夏の夜空の見え方が少し変わってきます。

「暗さ」を守るとは、電気を消すことではない

星空保護区の認定でまず誤解されやすいのが、「街灯を全部消して真っ暗にした場所」というイメージです。実際は違います。夜道の安全や暮らしは守ったまま、光を空へ逃がさないという発想で対策します。専門的には「光害(ひかりがい)」——必要のない方向やまぶしすぎる人工光が、夜空を明るくしてしまう現象——をどう抑えるか、という話です。

具体的には、認定を目指した神津島や美星などでは、街灯を光害対策型の照明に交換してきました。ポイントは二つ。一つは上方光束率0%、つまり光を上(空)にはいっさい漏らさず、地面だけを照らす傘つきの器具にすること。もう一つは色温度3000K以下の、青白くない暖色の光を選ぶこと。青白い光ほど空を明るくしやすいためです。加えて、看板照明や自販機の明かりを夜の一定時間に消すといった、まちぐるみの取り決めも重ねられています。下の図が、その考え方のいちばん短い説明です。

従来の照明 光が上にも漏れ、夜空が明るむ → 星がにじんで見えにくい 光害対策型の照明 上方光束率0%・色温度3000K以下 → 夜空が暗く保たれ、星が戻る

図:光害対策の考え方の模式図(ダークスカイ・インターナショナル/環境省「光害対策ガイドライン」の趣旨に基づきアルク作成。実際の器具形状を示すものではありません)

日本の4か所は、それぞれ「暗さの作り方」が違う

星空保護区は世界で250か所あまり(2025年時点)。そのなかで日本の認定はまだ4か所です。しかも、同じ「星空保護区」でも区分(カテゴリー)はそれぞれ異なります。数の少なさと、成り立ちの違いが、この制度のおもしろいところです。順に見ていきます。

いちばん最初は、沖縄の西表石垣国立公園。2018年3月、石垣市と竹富町の申請にもとづき、日本初の星空保護区(ダークスカイ・パーク)に認定されました。八重山の空は世界でも屈指の暗さで、報道によれば国際天文学連合が推奨する基準を上回る21.62〜21.99等級/平方秒角という空の暗さが測られたとされます(数字が大きいほど暗い)。ただし当初は基準を満たさない外灯が多く「暫定認定」からの出発で、そこから改善を積み上げてきた土地でもあります。

二つ目は、東京都の神津島(神津島村)。2020年12月、条例改正と街灯の更新を進めて認定を受けました。じつはこれが、暫定ではない日本初の正式認定です。IDAは神津島に対して特別に「ダークスカイ・アイランド」という呼称の使用も認めています。東京都にも星空保護区がある——都会の名前と星空の意外な同居が、この島の際立った点です。

三つ目は、岡山県の美星(びせい)町(井原市)。2021年11月、コミュニティ部門(ダークスカイ・コミュニティ)としてアジアで初めて認定されました。その名のとおり「美しい星」を町名に持つまちが、防犯灯の更新などを住民ぐるみで進めた結果です。行政区域そのものが認定対象になる区分で、暮らしの側から夜空を守る一例といえます。

四つ目が、いちばん新しい福井県の南六呂師(みなみろくろし)(大野市)。2023年に「アーバン・ナイトスカイプレイス」という区分でアジア初の認定を受けました。市街地に近い高原でも、照明の工夫しだいで守れる空がある——そのことを示す土地です。奥越の高原に広がる開けた夜空は、まさに星を待つための場所のように見えます。

認定地認定年区分と特徴
西表石垣国立公園(沖縄)2018年ダークスカイ・パーク/日本初、当初は暫定認定から
神津島(東京都)2020年ダークスカイ・パーク/日本初の正式認定、「アイランド」呼称も
美星町(岡山・井原市)2021年ダークスカイ・コミュニティ/コミュニティ部門でアジア初
南六呂師(福井・大野市)2023年アーバン・ナイトスカイプレイス/この区分でアジア初
星を守るというと、遠い自然保護の話に聞こえます。でも実際にやっているのは、街灯の傘を替え、看板を夜に消すこと。暮らしのすぐ隣にある、地味で具体的な手仕事の積み重ねなのだと知りました。

この夏、訪ねる前に確かめたいこと

認定地だから毎晩必ず満天の星、というわけではありません。星の見え方は、その日の天気と月齢に大きく左右されます。月が明るい夜は、どれだけ空が暗くても星は控えめになります。旅程を組むなら、新月に近い時期をねらい、当日の天気予報を見て、雲の少ない夜に賭ける——ここは自然が相手なので、こちらが合わせるほかありません。

そして、夏は天の川が濃く見える季節です。日が落ちてしばらく、空がしっかり暗くなってからが本番なので、宿や交通の最終便を先に確かめておくと慌てずにすみます。離島や高原は最終のバス・フェリーが早いこともあります。観望会やツアーが開かれている地域もありますが、開催や料金は時期で変わるため、各地の観光協会や施設の最新の案内で確かめてください。

もう一つ、現地でのささやかな作法があります。暗さは、みんなで守っているもの。撮影のライトやスマホの画面、車のヘッドライトは、周囲の人の見ている星を一瞬で消してしまいます。足元用の明かりは暖色の弱いものにして、私有地や農地に立ち入らない。星を守ってきた土地では、訪ねる側もそっと足す一手を意識したいところです。


4か所という数字を、少ないと見るか、これからと見るか。世界に250余りある認定地のうち、日本はまだ4つ。裏を返せば、私たちの多くのまちの夜空は、それだけ人工の光に明るまされている、ということでもあります。星がきれいに見える場所は、放っておいて残るのではなく、誰かが傘を替え、明かりを消して守っている——そう思うと、次の旅で見上げる空が、少し違って見えてこないでしょうか。あなたが今年の夏、天の川を確かめに行くとしたら、北の高原の島でしょうか、それとも南の海の果てでしょうか。

出典:ダークスカイ・ジャパン(旧・国際ダークスカイ協会)/一般社団法人星空保護推進機構「星空保護区(International Dark Sky Places)」、井原市「美星町 アジア初となる星空保護区(コミュニティ部門)に認定」(2021年11月1日)、神津島村・IDA東京「東京都初!星空保護区認定」(2020年12月)、環境省「光害対策ガイドライン」、星空保護区(Wikipedia)。西表石垣の暗さの測定値・南六呂師の区分は各種報道より。空の見え方は天候・月齢で変わり、認定状況や観望会・料金等は変動するため、訪問前に各地の観光協会・施設および星空保護推進機構の最新案内をご確認ください。(2026年7月22日時点)
EDITOR'S NOTE — アルク:はじめは「星がきれいって、結局は運じゃないか」と思っていました。でも、暗さを守るためにまちが街灯を替えている、と知ってから、夜空を見る目が少し変わりました。感動の裏に手仕事がある。旅先で見上げる空にも、その土地の誰かの工夫が映っているのだと思うと、明かりの一つを消すことにも意味が出てきます。出かける前の天気と月の確認だけは、どうかお忘れなく。