のぼれる灯台は、全国で16基だけ。青森・尻屋埼から宮古島まで、夏の岬を北から南へ。
要点:日本には数多くの灯台がありますが、内部にのぼって展望できる「参観灯台(のぼれる灯台)」は全国で16基だけです。公益社団法人・燈光会が海上保安庁の委託を受けて公開しており、参観の寄付金は中学生以上300円が基準。青森の尻屋埼から沖縄・宮古島の平安名埼まで、16の岬を北から南へたどりながら、公開期間や休止の可能性など、訪ねる前に確かめておきたいことを整理しました。
岬の突端まで歩くと、風の音のほかは何も聞こえなくなる場所があります。その先に白い塔が立っていて、扉が開いていて、らせん階段を自分の足でのぼれる——そんな灯台に、私たちはなかなか出会えません。灯台は本来、船に位置を知らせる「航路標識」であって、観光施設ではないからです。全国にある灯台の多くは、外から眺めることはできても、中に入ることはできません。
ところが例外的に、内部を一般に公開している灯台があります。それが「参観灯台」、通称「のぼれる灯台」で、その数は全国でちょうど16基。夏は海風が抜けて、階段をのぼりきった先の視界がいちばん広く感じられる季節でもあります。今回は、この16基を北から南へ、地図の上でひとつずつたどってみます。
なぜ「のぼれる」のは16基だけなのか
灯台は海上保安庁が管理する航路標識で、レンズや灯器といった精密な機器が納められています。安全と保守の観点から、内部は原則として立入禁止です。そのなかで16基だけが、公益社団法人・燈光会(とうこうかい)に参観業務が委託され、私たちが入って展望階までのぼれるようになっています。つまり「のぼれる灯台」とは、歴史や構造の面で公開に耐える一部の灯台を、専門の団体が窓口となって開けてくれている場所、ということになります。
参観には寄付金の協力が求められ、基準額は中学生以上ひとり300円です(施設や時期によって扱いが異なる場合があるため、現地の案内に従ってください)。灯台の維持や公開のための費用にあてられるお金で、入場料というより「開けてくれていることへの一口」と考えると腑に落ちます。金額の大小より、閉じているのが当たり前の塔がここでは開いている、という事実のほうが旅の記憶に残ります。
図:のぼれる灯台16基(燈光会「のぼれる灯台16」に基づき作成/並び順はおおむね北から南で、厳密な緯度順ではありません)
北から南へ、16の岬を一筆でたどる
いちばん北は青森県・下北半島の尻屋埼灯台。寒立馬(かんだちめ)が草をはむ原野の先に立ちます。そこから日本海側へ回って秋田・男鹿半島の入道埼灯台、太平洋側へ戻って福島・いわきの塩屋埼灯台と続きます。関東に入ると、千葉の東の端・銚子の犬吠埼灯台、房総半島の南端・野島埼灯台、そして東京湾の入口を守る神奈川・横須賀の観音埼灯台。観音埼は日本で最初に建てられた洋式灯台の地としても知られています。
東海に下ると、熱海の沖に浮かぶ島の初島灯台、遠州灘に突き出す御前埼灯台。三重・志摩半島には安乗埼灯台と大王埼灯台が近くに並び、絵描きが集まる岬として親しまれてきました。紀伊半島の南端には和歌山・串本の潮岬灯台。ここまでで11基です。
残る5基は西日本と離島にあります。島根・出雲の出雲日御碕灯台は、石造りの灯台として日本一の高さで知られる一基。山口・下関の角島灯台は、長い橋で渡る島の白い灯台として写真でおなじみです。九州では宮崎・串間の都井岬灯台が、野生馬の岬に立っています。そして沖縄本島・読谷(よみたん)の残波岬灯台、最後は宮古島の平安名埼(へんなざき)灯台。北の下北から南の宮古島まで、直線で結べば列島をまるごと縦断する長さになります。
灯台は「見る」ものだと思っていました。でも16基だけは「のぼる」ことができる。眺める対象から、自分が立つ場所へ——それだけで、岬の風景の意味が少し変わります。
訪ねる前に、確かめておくこと
16基を一度に巡る必要はありません。旅の途中に一基、寄り道するだけでも十分です。ただし灯台は生きている施設なので、行く前に次のことは確かめておくと安心です。
| 確かめること | いまわかっている目安 |
|---|---|
| のぼれる基数 | 全国で16基(参観灯台) |
| 窓口 | 公益社団法人・燈光会(海上保安庁の委託) |
| 参観の寄付金 | 中学生以上ひとり300円が基準(施設・時期で異なる場合あり) |
| 公開期間 | 通年公開とは限らない。たとえば尻屋埼は4月下旬〜11月上旬など、灯台ごとに違う |
| 休止の可能性 | 天候不良や施設改修で参観を休むことがある。事前に燈光会サイトで確認を |
集める楽しみもあります。燈光会は2018年から「のぼれる灯台(16基)スタンプラリー」を実施していて、各灯台の窓口でスタンプ帳(1冊150円)にスタンプを押してもらえます。同会のサイトによれば、令和8年(2026年)6月30日時点で16基すべてを達成した人は822名。何年もかけて少しずつ埋めていく人が多いようで、急いで回るより、旅の口実として一基ずつ増やしていくのが性に合っている企画に見えます。
16という数字は、多いでしょうか、少ないでしょうか。全国の海岸線の長さを思えば、のぼれる場所は驚くほど限られています。けれど「限られている」と知ってから地図を眺めると、次の旅先の候補がひとつ、すっと立ち上がってくる。どの岬から会いに行くかは、この夏のあなたの現在地しだいです。閉じているのが当たり前の白い塔が、たまたま開いている——その16か所を、私はこれから一基ずつ、自分の足で確かめていくつもりです。