食文化 — 2026.07.22 WED NO.013 / TSUGINOTE LOCAL

甘酒は、実は
夏の季語だった

酒米を蒸す酒蔵の作業

要点:甘酒は正月や冬の飲み物という印象がありますが、俳諧の世界では「甘酒」は夏の季語です。冷房も冷蔵庫もなかった江戸時代、夏になると甘酒売りが町を歩き、暑気払いに飲まれていました。「甘酒」には米麹からつくるものと酒粕からつくるものの二種類があり、米麹の甘酒はほぼノンアルコールで、砂糖を加えなくても甘いのが特徴です。ただし「飲む点滴」はあくまで俗称で、糖分は含まれます。この夏は冷やし甘酒として、蔵元・産直・ふるさと納税などで出会えます。価格・在庫・原料は商品ごとに変わるため、購入時は各店・公式でご確認ください。

甘酒はいつの飲み物か、と聞かれたら、多くの人が「冬」「お正月」「初詣の屋台」と答えると思います。私もそう思っていました。ところが、俳句の季語を集めた歳時記をひらくと、「甘酒」は夏の部に置かれています。冬の季語ではないのです。この一点の思い違いをほどくと、甘酒という飲み物の来歴が、ずいぶん違って見えてきます。今日は、夏の甘酒という古くて新しい飲み物を、産地と作り手の目線でたどってみます。

江戸の夏、甘酒売りが町を歩いていた

冷房も冷蔵庫もない江戸の夏を、人々は知恵で乗り切っていました。そのひとつが甘酒です。夏になると、天秤棒を担いだ甘酒売りが「甘いっ、甘いっ」と声を上げて町を練り歩き、暑気払いの一杯として売られていた、と伝えられます。麹でつくる甘酒はアミノ酸やブドウ糖を含み、砂糖の乏しかった時代には、庶民が手軽に口にできる数少ない甘味でもありました。夏バテで食が細るこの季節に、飲めば力になる——そういう位置づけの飲み物だったわけです。

甘酒が夏に広く飲まれた飲み物だったからこそ、俳諧では夏の季語として定着しました。幕府が甘酒の値段に上限を定めたと伝える記録もあり、それだけ庶民の暮らしに近い、値の張らない飲み物だったことがうかがえます。「甘酒=寒い日に体を温めるもの」という現在の感覚は、暖房のある暮らしと初詣文化のなかで後から重なったイメージで、本来は真夏の飲み物だった——そう考えると、俳句の季語の並びも腑に落ちます。

暑い盛りに、あえて温かい甘酒を飲む。汗をかいて涼をとるという、いまの冷たい麦茶とは逆向きの発想が、江戸の夏にはありました。もちろん、冷やして飲む甘酒売りもいたと伝わります。

「甘酒」は、実は二種類ある

もうひとつ、混同されがちな点があります。ひとくちに甘酒といっても、原料の違いで大きく二種類に分かれます。米と米麹(こめこうじ)を発酵させてつくるものと、日本酒を搾った後に残る酒粕(さけかす)を溶いてつくるものです。同じ「甘酒」の名でも、中身はかなり違います。

種類甘さのもとアルコール/砂糖
米麹の甘酒麹の酵素が米のでんぷんを分解してできるブドウ糖。砂糖を加えなくても甘いほぼノンアルコール。砂糖不使用の商品が多い
酒粕の甘酒酒粕を湯で溶き、砂糖などで甘みを足す微量のアルコールを含む。甘みづけに砂糖を加えることが多い

米麹の甘酒には、素早く吸収されるブドウ糖のほか、遊離アミノ酸やビタミンB群などが含まれるとされます。子どもや車の運転前でも飲めるのは、こちらのタイプです。一方、酒粕の甘酒はたんぱく質を多く含み、独特のこくがありますが、微量ながらアルコールを含むため、飲む人・飲む場面には少し注意がいります。夏の水分・栄養補給として飲むなら、まずは米麹・砂糖不使用と書かれたものを選ぶと、江戸の甘酒に近い一杯になります。

ここで正直にお断りしておきます。甘酒は「飲む点滴」と呼ばれることがありますが、これはあくまで俗称です。栄養が豊富なのは確かでも、医療の点滴と同じではありませんし、ブドウ糖という糖分をしっかり含みます。健康のためにと飲みすぎれば、糖の摂りすぎにもつながります。血糖値が気になる方は量やタイミングにご注意を。効能をうたって大量に飲むより、夏の一杯として無理なく楽しむのが、この飲み物には似合っています。


いま、夏の甘酒に出会うには

幸い、甘酒はいまや通年で手に入ります。夏に楽しむなら、やはり冷やし甘酒です。米麹の甘酒をよく冷やし、濃ければ水や炭酸、豆乳で好みにのばす。塩をほんのひとつまみ落とすと甘さが締まり、汗をかいた後にちょうどよく感じます。凍らせてシャーベットにしたり、旬の桃やトマト、きゅうりと合わせてスムージーにする飲み方も、暑い日には向いています。江戸の人が温めて飲んだものを、私たちは冷やして飲む。同じ甘酒でも、季節の楽しみ方は時代で変わっていいのだと思います。

買う道筋はいくつかあります。ひとつは、各地の味噌蔵・麹屋・造り酒屋が出す蔵元の甘酒を、道の駅や産直、オンラインストアで取り寄せる道。米どころ・酒どころには、その土地の米と麹でつくる甘酒があり、蔵ごとに甘さも香りも違います。もうひとつはふるさと納税で、麹や甘酒を返礼品に用意している自治体もあります。どの道でも、原料(米麹か酒粕か)・砂糖の有無・アルコールの有無・保存方法は商品ごとに違い、価格や在庫も時期で変わります。特定の銘柄を名指しでおすすめするより、飲もうと思ったそのときに、ラベルと各店・公式の表示で確かめていただくのが確実です。

甘酒がいい飲み物なのは、材料が米と麹と水だけ、というところにもあると思います。産地の米を、その土地の麹屋や蔵が甘い一杯に変える。派手さはないけれど、田んぼと発酵の手仕事がまっすぐ一杯につながっています。「甘酒は冬のもの」という思い込みを一度置いて、この夏、冷たい甘酒を一口。江戸の人が暑さをしのいだのと同じ知恵を、いまの台所でなぞってみるのも悪くありません。夏の季語を、飲んで確かめる。そんな楽しみ方ができる飲み物です。

出典:日本名門酒会「お酒の歳時記」夏の甘酒(甘酒は夏の季語)/古町糀製造所甘酒は夏の季語⁉ 甘酒の知られざる歴史(江戸の甘酒売り・暑気払い)/かわしま屋米麹甘酒と酒粕甘酒の違い(原料・アルコール・栄養の違い)/ふるなび公式ブログ甘酒の効果・飲み方。原料・砂糖やアルコールの有無・価格・在庫・保存方法は商品や時期により異なります。健康効果は個人差があり、糖分を含むため飲みすぎにご注意ください。購入時は各店舗・公式情報とラベル表示で最新をご確認ください。
EDITOR'S NOTE — ミノル:甘酒は「実る」というより、米と麹が甘さに変わる小さな発酵の産物です。冬の飲み物だと思い込んでいた自分が、夏の季語だと知ったときの意外さを、そのまま記事にしました。効くから飲む、ではなく、うまいから夏に一杯。産地の米と麹屋の手が一杯の後ろにあることを思い出すと、冷やし甘酒がいっそうおいしく感じます。無理のない量で、この夏の楽しみに。