まち歩き — 2026.07.27 MON NO.028 / TSUGINOTE LOCAL

洞窟の気温は、その土地の年平均気温とほぼ同じ。
全国6か所で検算すると、法則から外れる場所がある

石を切り出した壁が続く、宇都宮・大谷の石の道

要点:真夏に鍾乳洞へ入ると涼しいのは、洞が冷やされているからではありません。地下は深くなるほど外気の影響を受けず、洞内の気温はその土地の年平均気温に近い値で落ち着く、というのが一般的な説明です。だとすれば、気象庁の平年値と突き合わせれば確かめられるはず。全国6か所の公表値と最寄りアメダスの年平均気温(1991〜2020年平年値)を並べたところ、岩手・龍泉洞はほぼ一致、山口・秋芳洞は3℃ほど高く、山梨と群馬の「風穴」にいたっては法則の外側にありました。数字を先に見ておくと、行き先だけでなく持っていく上着も変わります。なお料金・開園状況は変わります。群馬・荒船風穴は現在、クマの出没により平日は閉園中です。

冷やしているのではなく、追いついていない

洞窟に冷房はありません。それでも外が35℃の日に中が15℃なら、どこかから涼しさが供給されているように思えます。実際に起きているのはその逆で、洞窟は「外の気温についていっていない」だけです。

地面の温度は、深くなるほど地表の暑さ寒さが伝わりにくくなります。おおむね地下10mより深いところでは、日々の気温変化はほとんど届かず、季節の変化もならされる。その結果、地中の温度はその土地の平均的な気温、つまり年平均気温の付近で落ち着きます。鍾乳洞の見学路の多くはこの層にあるので、夏も冬もほぼ同じ温度で、私たちの側が勝手に「涼しい」「暖かい」と感じ分けている、という順序です。

この説明が正しいなら、確かめる方法があります。洞窟が公表している洞内気温と、その土地の年平均気温を並べればいい。年平均気温は気象庁が平年値として公開しています。検算してみました。

平年値と、突き合わせる

各施設・自治体・観光案内が公表している洞内気温と、最寄りのアメダス地点の年平均気温(1991〜2020年平年値)です。

洞窟公表されている洞内気温最寄り観測地点の年平均気温
龍泉洞(岩手県岩泉町)年間を通して10℃前後岩泉 10.3℃約 −0.3℃
日原鍾乳洞(東京都奥多摩町)年間を通じて11℃小河内 12.3℃約 −1.3℃
秋芳洞(山口県美祢市)四季を通じて17℃秋吉台 13.9℃+3.1℃
玉泉洞(沖縄県南城市)年間を通して21℃那覇 23.3℃約 −2.3℃
富岳風穴(山梨県富士河口湖町)平均3℃(後述)
荒船風穴(群馬県下仁田町)9月末で2.4℃/8月に氷が残る(後述)

先に断りを入れておきます。アメダスは洞窟の真上にあるわけではありません。標高が数百メートル違えば気温も変わりますし、洞内気温のほうも各施設の案内に載っている値で、どこでどう測った数字かまで公開されているわけではない。ですからこれは厳密な比較ではなく、桁と傾向を見るための検算です。

ぴたりと合った岩泉、3℃ずれた美祢

それでも、龍泉洞の一致は見事でした。公表値10℃前後に対して岩泉の年平均気温は10.3℃。日原鍾乳洞も1℃ちょっとの差で、日原の集落は小河内のアメダスよりさらに山あいの高い場所にありますから、洞内のほうが少し低く出るのは筋が通ります。

ずれが大きかったのは秋芳洞です。洞内17℃に対し、秋吉台のアメダスは13.9℃。3℃分、洞のほうが高い。秋吉台のアメダスは石灰岩台地の上にあり、秋芳洞の入口はその台地の下、川が流れ出す標高の低い側にあります。同じ美祢市でも観測している場所の高さが違う、という事情は関係していそうですが、それだけで3℃すべてを説明できるとは言えません。ここは「合わなかった」と書いておきます。

沖縄の玉泉洞は21℃で、那覇の年平均23.3℃より2℃ほど低い。ここで面白いのは、法則から少しずれていることより、21℃という数字そのものです。那覇の8月の平均気温は29.0℃。同じ島の地上と地下で、8℃の差がある。「南だから洞窟も暑い」わけではなく、「南だから洞窟も21℃止まりで、それでも夏の外よりずっと涼しい」というのが実態です。

公表されている洞内気温(℃) 0 5 10 15 20 25 30 35 荒船風穴 2.4 富岳風穴 3 龍泉洞 10 日原鍾乳洞 11 秋芳洞 17 玉泉洞 21 猛暑日の外気 35 各施設・自治体・観光案内の公表値をもとに作図(2026年7月時点)。外気35℃は目安の基準線。

法則の外にある、「風穴」という型

表の下二つは、桁からして違います。

山梨県富士河口湖町の富岳風穴は、青木ヶ原樹海のなかにある溶岩洞です。総延長201m、高さは最高部で8.7m、見学は所要15分ほどの横穴で、公式サイトが掲げる平均気温は3度。夏でも溶けない氷柱があり、昭和初期までは蚕の卵の貯蔵に使われていました。国の天然記念物です。壁の玄武岩が音を吸うため、洞内では不思議と音が反響しないという説明も付いています。

群馬県下仁田町の荒船風穴は、そもそも見学するのが施設そのものではなく、施設の「跡」です。明治38年(1905)から大正3年(1914)頃にかけて造られた蚕種(かいこの卵)の貯蔵施設で、3基あわせて国内最大規模の貯蔵能力を持ち、取引先は42道府県から朝鮮半島にまで及びました。世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産のひとつです。下仁田町の案内には、9月末の風穴の気温が2.4℃、8月には氷が残ると書かれています。

この二つに共通するのは、岩の隙間を抜けて出てくる冷たい空気があることです。地中の平均温度で落ち着く一般の鍾乳洞と違い、溶岩や崩れた岩塊の隙間が冷気を溜め、それが吹き出してくる。だから土地の年平均気温よりはるかに低い値になる。近代の人たちはその性質を見抜いて、電気の冷蔵庫がない時代に蚕の卵の貯蔵庫として使いました。涼しい場所を探していたのではなく、涼しさを産業に変えていたわけです。

番外:石を掘った跡も、地下である

洞窟ではありませんが、同じ理屈で涼しい場所があります。栃木県宇都宮市の大谷資料館は、大正8年(1919)から昭和61年(1986)まで約70年かけて大谷石を切り出した跡にできた、およそ2万平方メートルの地下空間です。坑内の年平均気温は8℃前後と案内されています。自然が掘ったか人が掘ったかの違いはあっても、地下であることに変わりはない。この記事の見出し画像も、その大谷の石の道です。

出かける前に、見ておく欄

この夏に訪ねるつもりなら、気温より先に確認すべきは受け入れの状況のほうです。2026年7月時点で各公式・観光案内に掲載されている値をまとめます。

施設時間・料金など
秋芳洞(山口県美祢市)7/1〜9/30は正面口9:00〜最終受付17:30(お盆8/8〜16は8:30開始)。変動料金制で、夏期(7/1〜8/31)は大人1,900円、通常期1,600円。中学生1,300円・小学生850円
龍泉洞(岩手県岩泉町)大人(高校生以上)1,100円・小中学生550円。公開コースは約700m
日原鍾乳洞(東京都奥多摩町)見学時間の目安は約40分。料金は案内によって800円・900円と表記が分かれているため、公式で確認を
玉泉洞/おきなわワールド(沖縄県南城市)9:00〜17:30(最終受付16:00)、年中無休。入園 大人2,000円・小人1,000円。全長約5kmのうち890mを公開
富岳風穴(山梨県富士河口湖町)4/1〜10/15は9:00〜17:00。大人350円・小人200円
荒船風穴(群馬県下仁田町)9:30〜16:00(最終受付15:30)、大人500円・高校生以下無料。クマの出没により当面のあいだ平日は閉園、土日祝はシャトルバス運行で開園。12〜3月は冬期閉鎖。石積み保護のため風穴の内部には入れない(見学者広場に冷風体験室あり)
大谷資料館(栃木県宇都宮市)4〜11月は9:00〜17:00(最終入館16:30)、無休。大人800円・小中学生400円

料金・時間・開園状況はいずれも変わります。とくに荒船風穴のような屋外の史跡は、天候や獣の出没で運用が急に変わるので、訪問前に公式ページのお知らせ欄を一度開いてください。この記事でお願いしたいのは、それひとつです。


最後に服の話をします。洞内10℃台前半の場所では、真夏の外との差が20℃を超えます。半袖のまま40分歩けば、出てくる頃には体が冷えている。足元も、濡れた岩と階段が続きます。羽織るものを一枚と、滑りにくい靴。荒船風穴のように8月でも氷が残る場所へ行くなら、もう一枚あっていい。

数字を先に見るというのは、行き先を格付けすることではなく、この準備のことです。地図の上では遠く離れた岩手と東京の山あいが、洞の中では1℃しか違わない。今日から9月にかけて、その1℃はどちらも歩ける温度です。

出典:気象庁「平年値(年・月ごとの値)」岩泉小河内秋吉台那覇(いずれも1991〜2020年)、美祢市観光協会「2026年繁忙期及びお盆期間中の秋芳洞営業時間及び料金の変更について」「特別天然記念物 秋芳洞」、日本観光鍾乳洞協会「龍泉洞」、大多摩観光連盟「日原鍾乳洞」、沖縄観光コンベンションビューロー おきなわ物語「おきなわワールド」、富岳風穴 公式サイト富士の国やまなし観光ネット「富岳風穴」、下仁田町「荒船風穴の見学について」(2026年7月15日更新)「世界遺産「荒船風穴」」、大谷資料館 公式サイト宇都宮市。洞内気温は各施設・自治体の公表値、料金・時間は2026年7月時点の掲載値です。変動しますので訪問前に公式でご確認ください。
EDITOR'S NOTE — アルク:涼しい場所を探すとき、私たちはたいてい「北へ行く」か「高いところへ行く」を考えます。今回並べてみて意外だったのは、沖縄の玉泉洞21℃が、真夏の東京の街なかよりずっと過ごしやすい数字だったことでした。地下は緯度の話を一段だけ無効にする。ただし、その涼しさを産業に使った荒船風穴が、いまはクマの都合で平日に開かない。土地の事情は、法則の外側で毎年更新されています。行く前に一度、公式のお知らせ欄を。