スマート農業は「広い平地」だけの
話ではない。
要点:「スマート農業は広い平地の大規模経営のための話」と思われがちですが、国が認定した技術の一覧を見ると、急傾斜地や中山間地域向けの農機が並びます。スマート農業技術活用促進法(2024年10月施行)の開発供給実施計画は2026年3月時点で50計画に達し、うち複数が中山間・急傾斜地を名指し。農家側の導入計画も各地で認定が続いています。ただし認定は「作る・始める」入口であり、買える価格か・誰が直すか・通信が届くかという現場の条件は、これからの宿題です。
地方の農業の話になると、スマート農業は「広い北海道や平場の大規模経営が使うもので、うちのような急な斜面や小さな田んぼには縁がない」と語られがちです。私も長らく、そのイメージを疑っていませんでした。ところが、国が法律に基づいて認定した技術の一覧を開くと、その思い込みは少し揺らぎます。並んでいたのは、急傾斜の法面で草を刈るロボットや、中山間の田んぼの水を無線で管理する装置でした。
まず、法律のいまを確かめる
土台になっているのは、2024年6月に成立し、同年10月1日に施行された「スマート農業技術活用促進法」です。この法律は二つの認定制度を持ちます。一つは、農業者などがスマート技術を取り入れて生産のやり方を変える「生産方式革新実施計画」。もう一つは、メーカーや大学が新しい技術を開発して世に出す「開発供給実施計画」です。認定を受けると金融や税制の支援に加え、2025年度補正・2026年度当初予算の各種事業で審査時の加点など優遇を受けやすくなる、と農林水産省は説明しています。
作る側と使う側の両輪を、国が同じ枠組みで後押しする設計です。施行から約1年9か月。二つの認定の中身は、この両輪がどれだけ回り始めたかの目安になります。
「開発認定」の一覧に、中山間が並ぶ
開発供給実施計画の認定は、2026年3月6日時点で50計画。直近では同日にヤマハ発動機の無人ヘリ用散布装置が加わりました。注目したいのは、その中身です。平場の大規模向けだけでなく、傾斜地や中山間を名指しした計画がいくつも含まれています。
| 認定された技術(中山間・急傾斜の例) | 開発主体(認定) |
|---|---|
| 急傾斜の法面等で草丈1m超の雑草にも対応する、遠隔・自動運転の電動草刈りロボット | ユニック(2025年9月) |
| 自動充電で連続稼働し、中山間の休耕地・畦・傾斜地の草刈りや露地防除を自動化する小型電動農機 | 京都大学(2025年5月) |
| 急傾斜のかんきつ園地でも運用できる自動摘果・収穫・運搬ロボット | 愛媛大学(2025年5月) |
| 中山間等でインターネットを介さず低コスト導入できる自動水管理システム | ほくつう(2025年2月) |
共通するのは、平地の大型機械では届かない「急な斜面」「細い畦」「電波の弱い谷あい」を意識している点です。中山間の農作業で重い負担とされる草刈りや水管理、傾斜地の収穫に、狙いを定めた技術が認定を通っている。少なくとも“開発の地図”の上では、中山間は空白地帯ではなくなりつつあります。
農家側の一歩も、記録に残り始めた
では、使う側はどうか。生産方式革新実施計画は各地の地方農政局が認定しており、農家の名前とともに公表されます。たとえば関東農政局は2026年4月23日、二件を認定しました。
合同会社なかの農園と齊藤利治氏。いずれも、自動操舵トラクターや自動操舵の水稲直播機を導入し、田んぼを平らにならす「ほ場の均平化」で作業の精度と収益性を高める計画とされています。(関東農政局 2026年4月23日発表)
派手なロボットではありません。自動操舵で真っ直ぐ走らせ、田を平らにして種を直にまく。地味ですが、人手の要る作業を確実に減らす方向です。開発認定の華やかさに比べ、導入認定は一件ずつ、名前を伴って積み上がっていきます。この静かさのほうが、現場の実像には近いのかもしれません。
「認定」は入口、本番はその先
ここで立ち止まりたいのは、認定が何を意味するかです。開発供給実施計画の50計画は、あくまで「作って売る計画が認められた」段階。多くはまだ普及前で、中山間の畑で日々動いているわけではありません。使う側の生産方式革新実施計画も、導入を「始める」計画であって、続いた保証ではありません。
現場で回り続けるかは、認定の外にある条件で決まります。小さな経営でも買える価格に落ちるか。故障したとき、谷あいの集落まで誰が直しに来るのか。自動運転や遠隔操作を支える通信は、電波の弱い斜面でも届くのか。そして、その機械を扱い、データを読む人が集落に残るのか。国が2025年度に設けた「スマート農業イノベーション推進会議(IPCSA)」も、メーカーや大学、自治体、農家をつないで普及の目詰まりを解こうとする試みですが、成果はこれからです。
思い込みが一つ崩れたのは確かです。スマート農業は、広い平地の専有物ではない。中山間や急傾斜を名指しした技術が、制度の上では確かに増えています。ただ、地図に道が描かれたことと、その道を軽トラで通えることは、まだ同じではありません。次に確かめたいのは、これらの認定機が数年後、どれだけ現場で「二年目、三年目」を迎えているか。続いているかどうかを、また件数の外側で見に行くつもりです。