「自治体ライドシェア」を名乗った協議会が
391自治体を集めた先で、名前を変えた。
要点:「自治体ライドシェア」という言葉から、白タク合法化を巡る一過性の議論を思い浮かべたなら、それは半分しか当たっていません。2026年7月1日、「全国自治体ライドシェア連絡協議会」は「全国自動車移動連絡協議会」(略称は変わらず全自連)に改称登記しました。設立から2年余りで、加盟は391自治体(4道県・387市町村、7月1日時点)に達していたといいます。看板から「ライドシェア」の四文字が外れた理由は、扱う中身がライドシェアだけでは収まらなくなったからだと、協議会自身が説明しています。
7月9日、全自連の公式サイトに「名称変更のご報告とご挨拶」という一文が掲げられました。共同代表を務める樋渡啓祐氏(元佐賀県武雄市長)と浅見泰司氏(東京大学特任教授)の連名です。名称変更そのものは7月1日付で登記済み。私が最初に思ったのは、正直「看板を掛け替えただけでは」という程度のことでした。ですが、391という加盟自治体数と、公開されている取組一覧を照らし合わせると、印象は変わりました。
四文字が消えた日
全自連は令和6年4月1日設立の一般社団法人です。きっかけは令和5年8月、当時の菅義偉元首相の発言を機に日本版ライドシェアを巡る議論が広がったこと。同年に実施した緊急首長アンケートでは、回答した延べ856人の首長のうち95%が「地域交通の現行制度は十分ではない」と答えたと、協議会は明かしています。この数字を土台に、国・自治体・交通事業者が手を組む受け皿として全自連は生まれました。
そこから2年余り。今回の名称変更にあたって公開された資料によれば、7月1日時点の加盟自治体数は391(4道県・387市町村)です。設立当初からどれだけ増えたのかを正確に積み上げた一次資料は見つけられませんでしたが、少なくとも「一部の先進自治体が試しに名を連ねた団体」という規模ではなくなっていることは、この数字だけでも分かります。
「ライドシェア」は、入り口の名前だった
改称の理由として協議会が挙げるのは、寄せられる相談がライドシェアの枠に収まらなくなったことです。タクシー・バスなど既存交通事業者との連携、自動運転サービスの普及支援、データに基づく政策立案——この三つをセットで全国に広げる方針だとしています。顧問を務める藤井直樹氏(元国土交通事務次官)のコメントも、同じ方向を指しています。免許を持たない高齢者の移動という「古典的」な課題にとどまらず、塾への子どもの送迎負担、花見シーズンに急増する観光客、港に着くクルーズ船旅客の足の確保まで、相談の幅が広がってきたというのです。
移動の負担や「行きたいのに行けない」という機会損失について、協議会は家庭内送迎の負担も含めた国民負担を年間約10兆円にのぼると推計しています。ただし、これは協議会自身の試算であり、国の統計として確定した数字ではありません。規模感を示す目安として受け取るのが妥当だと思います。
現場は、もう白タクの話をしていない
言葉の上の話だけでは実感が湧きません。協議会が紹介する事例の一つ、長崎県雲仙市を見てみます。まちづくり団体や温浴施設、スポーツ少年団などでつくる「うんぜん共創プラットフォーム」が、令和7年8月19日に許可登録不要型の共助版ライドシェア「i-Chanうんぜん」の運行を始めました。目的は中学校区をまたぐ子どもの習い事送迎。吾妻中学校と国見中学校を瑞穂総合支所経由で結ぶ路線を、平日火・木・金の17時30分から19時35分まで定時運行します。
車両は1台。温浴施設が送迎に使うマイクロバスの、空いている時間帯を回しているだけです。運転手は4名で、温浴施設の送迎スタッフが兼務し、安全講習を定期的に受けています。乗車の申込はLINE、運行情報はGPS端末でリアルタイムに把握する体制です。令和7年12月28日までの実証運行期間中は無料とされていますが、その先どうなったかを示す続報は、私が確認できた範囲では見当たりませんでした。この「その後」が分かるかどうかこそ、成果と持続性を見るうえで確かめたい点です。
白タクの合法化を巡る攻防、という構図でこの話題を覚えていた人には、温浴施設のマイクロバスが中学生を運ぶという規模の話は、ずいぶん地味に映るかもしれません。ですが全自連が挙げる代表例には、静岡県が県内35市町と組んでライドシェア制度の活用とデータ活用を進める話や、長崎県佐世保市がクルーズ客船入港時の二次交通を調査する話も並んでいます。看板が指す範囲は、確かに「移動」全般へと広がっていました。
名称変更のニュースだけを見れば、団体の内部事情に過ぎないとも言えます。ただ、391自治体という数字の内側に、雲仙市のような小さな現場が積み重なっているのだとしたら、話は違って見えてきます。看板を変えたことよりも、この先「移動の三本柱」を掲げた団体が、個々の現場の実証運行を本運行に変えていけるかどうか。読者のまちに関わる交通空白があるなら、加盟自治体一覧に見覚えのある名前がないか、一度確かめてみてはいかがでしょうか。