空き家対策の公募、117件のうち通ったのは36件。応募がいちばん少なかったテーマが、いちばん先の問題だった。
要点:国土交通省が2026年7月8日、令和8年度「空き家対策モデル事業」の採択を公表しました。応募117件に対して36件。全体の採択率は約3割ですが、5つあるテーマごとに応募数と採択数を割ってみると、いちばん人が集まった枠といちばん通った枠が一致しません。そして応募が7件しか集まらなかったテーマが一つあります。その枠に付けられている名前を読むと、これから最も件数が増える問題を指していることが分かります。
公募の結果は、たいてい「◯件採択」という一行で流れていきます。けれども公募には応募という前段があり、その二つを並べたときにはじめて分かることがあります。国土交通省が7月8日に公表した令和8年度「空き家対策モデル事業」の採択結果は、その並べ方が効く例でした。募集は4月20日から5月20日まで。集まった提案は117件、通ったのは36件です。
この制度は、NPOや民間事業者などの提案に国が直接支援を行い、成果の全国展開を図るというものです。採択は学識経験者等で構成される評価委員会の評価結果を踏まえて決まります。自治体向けの補助金とは筋が違い、地域で実際に手を動かしている側から「こういうやり方でどうか」を出してもらう枠だと考えると分かりやすいと思います。
5つのテーマ、応募と採択を割ってみる
この事業のテーマは5つに分かれています。国土交通省の発表には、テーマ別の応募件数と採択件数の両方が書かれていました。両方あるので、割り算ができます。
| テーマ | 内容(要旨) | 応募 | 採択 | 採択率 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 官民連携による独創的な相談対応の充実 | 16件 | 5件 | 31.2% |
| 2 | 空き家に関連する新たなビジネスモデルの構築 | 42件 | 11件 | 26.2% |
| 3 | 新たなライフスタイルや居住ニーズに対応した活用等 | 30件 | 12件 | 40.0% |
| 4 | 新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術活用 | 22件 | 6件 | 27.3% |
| 5 | 相続空き家の急増を見据えた実態把握・将来予測と既成住宅地の再編等の試行 | 7件 | 2件 | 28.6% |
| 計 | — | 117件 | 36件 | 30.8% |
採択率だけを見ると、突出しているのはテーマ3の40.0%です。逆にいちばん低いのが、最も多くの提案が集まったテーマ2の26.2%。つまり「新しいビジネスモデル」の枠には人が押し寄せ、そのぶん競争が厳しくなり、「新しい住まい方」の枠は相対的に通りやすかった、という形になっています。倍率の話としてはそれだけです。
ただ、私が引っかかったのは倍率ではありません。応募の絶対数です。テーマ2に42件、テーマ3に30件、テーマ4に22件が集まっているのに対して、テーマ5は7件でした。他の4テーマの合計110件に対して7件。1割にも届きません。
7件しか集まらなかった枠の、正式な名前
テーマ5の名前は長いので、発表文からそのまま引きます。
今後の相続空き家の急増を見据えた実態把握・将来予測を通じた多主体連携による既成住宅地の再編等の試行
読み下すと、内容はこうです。相続で空き家になる家がこれから急に増える、その実態と将来を把握し、住宅地をまとまりとして組み替える試みをやってみる。一軒の空き家をどう使うかではなく、住宅地という面をどう畳み直すかの話です。国はこのテーマの採択例として、行政・地域住民・大学・民間事業者が連携し、大規模団地の空き家所有者に対して「エリア全体の将来像」と「個別物件の事業提案」の双方からプレゼンを行うスキームの検証を挙げています。個別の物件だけでは動かないから、面の将来像と一緒に持っていく、という組み立てです。
ここに7件しか集まらなかったことを、私は「関心が低い」とは読みません。むしろ提案として組みにくいのだろうと思います。相手は一人の所有者ではなく多数の相続人であり、成果が出るまでの時間軸は数年では収まらず、事業として何を売るのかも定めにくい。テーマ2の「ビジネスモデル」に42件が集まったのは、そこに収益の形が見えるからでしょう。逆に言えば、いちばん先の、いちばん大きな問題が、いちばん提案の形になりにくい場所に置かれている。応募数の偏りは、そのまま難しさの地図に見えます。
同じ月、岐阜県が選んだ3件はどちら側だったか
国の公募の6日後、7月14日に岐阜県が別の結果を出しています。「政策オリンピック」という名前の枠で募った空き家流通・活用促進事業で、応募32団体のうち3団体を支援対象に決めた、というものです。県は選定の観点を「新規性や実現性など」と説明しています。32分の3ですから、国の公募よりずっと絞られています。
選ばれた3件を、県の発表に沿って挙げます。一つ目は一般社団法人郡上・ふるさと定住機構(郡上市)の「みんなのガレージプロジェクト」で、白鳥地域の農地付き空き家を共同利用型の交流拠点に整備し、農業初心者の小規模滞在や農業用機材の保管庫として使うというもの。二つ目はすみれアセットマネジメント株式会社(高山市)による、飛騨神岡地域に残る歴史的建築物(旧遊郭)を再生し、地域食堂と短期滞在機能を備えた複合拠点にする提案です。高齢者が地域食材の食堂を運営し、2階で短期滞在も可能で、相談会の運営には学生が協力するとされています。三つ目は関市役所の提案で、本町商店街の空き店舗を交流拠点に変え、マルシェ出店者の創業支援や起業セミナー、DIYワークショップにつなげる形です。
3件はいずれも、空き家を「拠点として使う」側にあります。滞在の器、食堂と宿の複合、商店街の空き店舗。国のテーマで言えば2と3の領域で、5の「面を畳み直す」ほうではありません。応募32件の内訳は公表されていないので、県の応募もそちらに偏っていたのかどうかは分かりません。分かるのは、国と県で規模も選び方も違う二つの公募が、同じ7月に、ほぼ同じ方向の提案を通したという事実です。
付け足すと、この3件目は提案者が関市役所、つまり自治体そのものです。県の枠に市が応募して選ばれている。空き家の活用は所有者と事業者だけの仕事ではなく、行政も一プレイヤーとして提案の列に並ぶ場面がある、ということでもあります。
薄いところに、期限がある
公募の結果表は、選ばれたものの一覧として読まれます。でも今回の場合、目を留める価値があったのは選ばれなかった側でも、落ちた提案でもなく、そもそも提案が集まらなかったテーマでした。117件のうち7件。そこに置かれているのは「これから急増する」と国が明記した問題です。急増する側の準備が、いま最も薄い。
もっとも、公募の応募数が地域の実力を測る指標だと言い切るのも乱暴です。テーマ5の内容は、モデル事業に手を挙げるより先に、都市計画や住生活基本計画の側で扱われている自治体もあるはずです。だから私はここで「地方は相続空き家に備えていない」とまでは書きません。書けるのは、国が用意した5つの入口のうち、いちばん先を向いた入口の通行量が最も少なかった、という一点だけです。
この制度は毎年度募集があり、令和7年度にも同じ枠で採択が行われています。もし来年度に提案を考えている団体や自治体があるなら、見る順番を一つだけ提案します。まず自分の得意な分野で募集要領を読むのではなく、テーマ別の応募件数を先に見ることです。国土交通省の発表には別添として応募状況と評価概要が付いています。混み合っている入口と、空いている入口が、そこに数字で出ています。空いている入口が、易しいという意味ではないとしても。