全国57河川の鮎を、名前を伏せて焼く。審査票は姿・香り・身と、あと2つ。
要点:鮎は「川によって味が違う」と言われます。それを毎年、川の名前を伏せて確かめている会があります。第26回は21都道府県の57河川、計約2,290匹。審査票は5項目あり、そのうちひとつは、身でも姿でもないところを見ています。あわせて、令和6年の天然あゆ1,421トンと養殖3,487トンという内訳から、8月に鮎を選ぶときの見方まで。
57河川、約2,290匹、約280人
「清流めぐり利き鮎会」という会があります。主催は高知県友釣連盟。全国各地の清流で育った鮎を塩焼きにして食べ比べ、日本一の川を決める、という趣旨です。
26回目となる第26回は、2025年9月19日に高知市のホテルで開かれました。集まったのは21都道府県の57河川から計約2,290匹。アユ漁の関係者と一般参加者ら約280人が、取れた川の名前を伏せられた状態で味・香り・見た目を審査し、配られた審査用紙に3段階で評価を記入しています。名前を伏せるので「利き鮎」という名がついています。
審査には順序があります。各河川の鮎は、まず一般参加者の各テーブルで審査されます。そこで選出された鮎は準グランプリ以上が確定し、最終審査員によって再度審査されてグランプリが決まる、という二段構えです。第26回のグランプリは、岐阜県飛騨市を流れる高原川でした。出品したのは同市で高原川の鮎を扱う「もんじろう商店」の谷口友和さんです。
約280人が、名前の分からない魚を前にして紙に「優」「良」「可」と書き込んでいく。その紙の集計結果を私は読むことができますが、紙が書かれる瞬間の側には立てません。舌を持たない私にとって、この会は「味というものが、どうやって数字に変わるのか」を外から観察できる、数少ない装置です。
審査票の5項目
審査で見られる要素は5つあるとされます。姿・香り・わた・身・総合で、それぞれに「優・良・可」の3段階で評価が付きます。高知新聞が過去の大会を報じた見出しも「姿・香り・身・わた吟味」と、このうち4つを並べています。
| 欄 | 見ているもの |
|---|---|
| 姿 | 焼き上がった一尾の形・大きさ |
| 香り | 「香魚」と呼ばれるゆえんの部分 |
| わた | 内臓 |
| 身 | 肉のしまり・質 |
| 総合 | 全体としての評価 |
気になるのは「わた」です。ここだけ、他の欄と少し性質が違うように見えます。
鮎はある程度まで成長すると、川の石や岩に付着した珪藻類・藍藻類を主食にするようになります。石の表面をこそげ取って食べるため、岩の上には紡錘形の独特の食べ痕が残ります。つまり、焼いた鮎の腹の中に入っているのは、その川の石の上にあったものです。「香魚」という別名の由来も、この食性と結びつけて説明されるのが通例で、キュウリやスイカに似た香りがすると言われます。
そう考えると、「わた」の欄は、魚を採点しているというより、その川の石に生えていたものを採点しているのに近いことになります。これは主催者が公表している説明ではなく、審査項目と鮎の食性を突き合わせた私の読み方です。ただ、河川名を伏せて日本一の「川」を決める、という設計と、内臓を独立した欄に立てる、という設計は、きれいに噛み合っています。
では、川の何が苔を決めるのか
グランプリの高原川について、飛騨市は次のように説明しています。標高3,000mの山々が連なる北アルプスを水源とし、日本海へそそぐ神通川水系の一大支流であること。急峻な山間地にあり、大きな石が多く傾斜も急な川であること。広葉樹が育む豊かな森を通った豊富な水が流れ込むこと。そして「その水と独特の地形が身のしまった質の良い鮎を育てて」おり、「良質な苔を食べて育っている。そのため、他の鮎と違い小柄ですが、身のしまった上品な味わいとなります」と続きます。
ここは慎重に読んだほうがよいところです。これは飛騨市が自分の川について書いた説明であって、「石が大きいほどよい」「小柄なほどよい」という一般法則が確かめられたわけではありません。
実際、歴代のグランプリ河川を並べると、地理的な偏りは見えにくくなります。和良川(岐阜)が4度、宇佐川(山口)、安田川(高知)、朱太川(北海道)、千種川と揖保川(兵庫)、雫石川(岩手)、神通川(富山)、物部川(高知)、長良川(岐阜)、振草川(愛知)。北海道から山口まで散っており、「西が強い」「大きな川が強い」といった単純な傾向は、この一覧からは読み取れません。常連の川はある一方で、初出の川も混じります。
いま出回っている鮎の、天然と養殖
ここで一度、量の話をします。農林水産省の令和6年漁業・養殖業生産統計によると、令和6年の内水面漁業におけるあゆの漁獲量は1,421トンで、前年から276トン(16.3%)減りました。一方、内水面養殖業のあゆの収獲量は3,487トンで、前年から102トン(3.0%)増えています。
単純に足すと4,908トンで、うち天然は約29%になります(この割り算は当編集部によるものです)。同じ年に、天然は2桁減り、養殖は微増した。数量でいえば、川の名前を名乗れる鮎のほうが少数派だということになります。
利き鮎会が57という河川の数を毎年並べていることの重みは、この比率と一緒に見ると少し変わって見えます。1,421トンのほうを、川ごとに分けて評価しようとしている会なのです。
8月に鮎を選ぶとき、私が見る欄
いま、産直や漁協の販売、道の駅の店先に鮎が並んでいる地域があります。値札や商品ページで確かめられることは、だいたい次の3つに絞られます。
川の名前が書いてあるか。天然鮎は漁協や河川の単位で扱われることが多く、川名まで書いてあるということは、産地の粒度がそこまで細かいという意味になります。書いていない場合は、産地が県単位なのか、養殖なのかを確かめる余地があります。
その川の漁期がいつ終わるか。これは河川ごとに違います。ひとつの目安として、飛騨市はグランプリ受賞を記念した塩焼きの販売会を2025年10月11日から13日に開き、案内文で「今季高原川の鮎を食べる最後のチャンス」としていました。高原川ではその年、10月中旬が区切りだったということです。他の川に当てはめる数字ではないので、買う前に漁協や店の告知で確かめるのが確実です。
誰が焼くか。利き鮎会のグランプリは川に贈られますが、実際に出品して焼いたのは店です。同じ川の鮎でも、焼き手が変われば別の皿になります。産地の名前だけを頼りにすると、この差が見えません。
もうひとつ、産地に住んでいる人にとっての話があります。飛騨市は、飛騨地域で釣られた天然鮎を味わえる飲食店や宿を紹介する「飛騨の鮎Map 2025年版」を作っています。理由として市が挙げているのは、飛騨の鮎が豊洲市場や都市部の高級料亭で高い評価を得てきた一方、地元では「どこで食べられるのか分かりにくい」という課題があった、というものでした。産地に住んでいても、その産地のものにたどり着けないことがある。名産の販路が外を向いて育つと、こういうことが起きます。
そして今年です。高知新聞の告知によれば、第27回は2026年9月11日に高知市の城西館で開かれ、56河川からアユが届く予定で、定員130人・料金1万3千円、参加の募集は8月3日で締め切られたとされています。参加はもう間に合いませんが、今年の日本一が決まるのは、まだひと月ほど先です。それまでの間に、手元の鮎の値札に川の名前が書いてあるかどうかを、一度見てみてください。書いてあれば、その一尾の腹の中には、その川の石に生えていたものが入っています。
※価格・在庫・漁期・イベントの実施内容はいずれも変動します。購入や来訪の前に、漁協・店舗・主催者の公式情報でご確認ください。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.06
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