オーバーツーリズム対策で236件が採択。一般型の一覧で数が多いのは、混雑ではありませんでした。
要点:観光庁の令和8年度「オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業」で、一次公募の採択結果が2026年7月10日に公開されました。一覧の番号は地域一体型が58、一般型が178。一般型の事業名を数えると、手荷物・トイレ・ごみ箱に関するものが25件あり、いずれも公募要領が例示している項目に沿っています。一方の地域一体型58には、一覧の下に一行の注記が付いていました。
制度の名前が長いので、先に短く書きます。混雑やマナー違反に困っている観光地に、国が2分の1から3分の2の補助を出す事業です。オーバーツーリズム対策の予算としては数年前からありますが、令和8年度は「面的」という言葉が前面に出ました。一つの寺の前の渋滞ではなく、地域ぐるみで組み立ててください、という趣旨です。
その一次公募の採択結果が、7月10日に特設サイトで公開されました。二次公募は7月17日12時で締め切られ、いまは採択された事業者が交付申請をしている段階です。つまりこの記事は申請の案内ではありません。通ったものを数えて、この制度が実際に何を買っているのかを見る話です。
一覧は2枚に分かれている
採択結果は「地域一体型 選定地域一覧」と「一般型 選定案件一覧」の2枚でできています。同じ事業の中に、要件も金額も違う2つの入口があります。
| 地域一体型 | 一般型 | |
|---|---|---|
| 補助率/上限 | 2/3以内・2億円 | 1/2以内・5,000万円 |
| 申請できる主体 | 地方公共団体、登録観光地域づくり法人(DMO) | 地方公共団体、DMO、民間事業者等 |
| 主な要件 | 関係者による協議の場を設け、住民の意見を取り込む方法を入れておく | 受入環境の整備や需要の平準化など、一つ以上のタイプの取組を行う |
| 一次公募の一覧 | 番号1〜58 | 番号1〜178 |
番号は申請主体ごとに振られているため、同じ計画に2つの番号が並ぶ箇所があります。たとえばニセコエリアの二次交通プロジェクトは、ニセコプロモーションボードと倶知安観光協会で番号5と6に分かれています。ですから「58地域」ではなく「58の番号」と読むのが正確です。両方を足すと236。以下の数え方は、すべて公表された一覧の事業名を私が数えたものです。
一般型178件を、事業名の言葉で数える
一般型の一覧を上から読んでいくと、同じ種類の言葉が繰り返し出てきます。手荷物、ロッカー、スーツケース。トイレ、便器。ゴミ箱。数えるとこうなりました。
| 事業名に含まれる語 | 件数 | 例 |
|---|---|---|
| 手荷物・手ぶら・大型荷物・ロッカー・スーツケース | 15 | 札幌市の不要スーツケース回収、立山黒部貫光の大型手荷物輸送、大分空港のロッカー整備 |
| トイレ・便器 | 6 | 女満別空港の和式便器洋式化、田舎館村の道の駅周辺トイレ洋式化、鹿島市の観光トイレ改修 |
| ゴミ箱・ごみ | 4 | 三芳パーキングエリア(上り線)と東京タワー、道頓堀商店会、丹波のICT・スマートごみ箱 |
合わせて25件。178件のうち7件に1件強が、荷物とトイレとごみ箱の話です。混雑予測の可視化やAIカメラ、需要分散のプロモーションももちろん並んでいますが、単語の出現数でいえばこの3つが目立ちます。
これを「地方が入場規制のような難しい策から逃げている」と読むのは、たぶん違います。公募要領の補助対象事業の例示表に、そのまま書いてあるからです。「観光客の大型手荷物により生じる課題への対応」の欄には手ぶら観光カウンターの整備、駅や宿泊施設の多機能ロッカー、配送エリア拡大の実証が並びます。スマートごみ箱の整備・実証運用費も例示されています。地域が思いついたというより、国が置いた棚から取っている、という順序です。
洋式トイレが「マナー違反の防止」の欄に入っている
その例示表で一つ、置き場所が意外だったものがあります。洋式トイレの整備・実証運用費は、受入環境の欄ではなく「私有地への無断立入り、車道撮影等の違反行為の防止に向けた取組」の欄に入っています。同じ欄には、違反行為監視用のAIカメラ、撮影スポットの整備、マナー啓発物の作成費が並びます。
トイレが足りないと人はどうするか、という想像が制度側にある、と読めます。マナーの問題として現れているものの一部は、設備の不足として先に起きている。だから対策の入口が設備の側に置かれている。採択一覧のトイレ6件が、和式から洋式への交換や洋式トイレの新設に集まっているのは、その順序に沿った結果だと思います。
地域一体型58の地理は、思ったほど均していない
もう1枚、地域一体型の58番号を都道府県で並べ替えてみます。北海道が番号1から11まで、11件で最多でした。函館、小樽、旭川・上川、帯広・音更、ニセコ圏、上川町、美瑛、洞爺湖、音更、弟子屈と続きます。
一方、中国地方より西は、島根県出雲市、香川県の小豆島(土庄町・小豆島町)、福岡県柳川市、大分県別府市、沖縄県那覇市(首里杜地区)、沖縄県竹富町の6件です。長野4、静岡4、京都4、新潟4、神奈川4と、東日本の山と温泉地の名前が並ぶ中で、西日本は薄い並びになっています。
なぜそうなったのかは、公表資料からは読み取れません。申請の総数が公表されていないため、西日本からの申請が少なかったのか、申請はあったが採択に届かなかったのかを分けられないからです。ただ、地域一体型の要件には「協議の場を設けておくこと」が入っています。協議会を先に持っている地域のほうが早く出てこられる制度である、という点は要件から言えます。
一覧の下の一行
そして、地域一体型の一覧4枚すべての下に、同じ注記が入っています。
今後、地域の関係者による協議の場を立ち上げ(一部地域は設置済)、現状の課題分析に基づき具体的な対策に係る計画を策定の上、取組を実施
採択された58の多くは、対策の中身がまだ決まっていません。計画名は付いていますが、公募要領を読むと、計画申請の時点で協議の場が設けられていない場合は「設置予定に関する情報を対策計画中に記載すること」でよい、と書かれています。つまりこの一覧は、対策が決まった地域の名簿ではなく、これから話し合う場が立ち上がる地域の名簿です。
ここは制度の弱点ではなく、設計だと思います。むしろ公募要領は、その話し合いの質のほうに条件を付けています。地域住民の意見の扱いについて、こう書かれています。
パブリックコメントや住民等を対象としたアンケート等の実施による、広く一般から意見を募るアプローチについても、協議を進める上で、地域住民の意向・意見を聴取する補助的な手法として実施することは当然可能ですが、これらを実施するだけでは、本事業において地域住民との協議を十分に実施したとは認められない
アンケートを回して報告書に綴じるだけでは足りない、と明記されているのは珍しい書き方です。審査でも、個別の協議だけで済ませず協議会を設置した場合は加点、という差が付けられています。既存の会議体を組み合わせる形でもよいとされているので、新しい会議を増やすことが目的ではありません。
この一覧は、来年の同じ一覧と並べて読める
補助事業の完了報告の期限は令和9年2月26日12時です。単年度で終わらない大規模な改修には最大3年間の複数年度計画認定制度がありますが、要領は認定されても翌年度以降の採択や交付を約束するものではないと明記しています。事前着手届出制度も同じで、届出が受理されても採択の保証ではなく、不採択なら支出は全額自己負担です。制度の側は、どこにも「続きます」と書いていません。
だから確かめる材料は、次の一覧になります。7月17日に締め切られた二次公募の採択結果が出たら、同じ数え方で並べてみるつもりです。荷物とトイレとごみ箱の比率が動くのか、北海道11対中国以西6の偏りが一次限りだったのか。そして地域一体型に選ばれた58の地域で、注記のとおりに協議の場が立ち上がり、対策計画が公表されるかどうか。設備は年度内に据え付けられますが、協議の場が来年度も残っているかは、補助金の完了報告には出てきません。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.15
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