地方創生 — 2026.08.20 NO.068 / TSUGINOTE LOCAL

まちなかでクマに発砲すると決めた役所が、この春夏で22
うち16は、去年の一覧に初めて出てきた名前です

公民館らしい木造の広間で、作業着姿の住民と職員が机に広げた地図を囲み、一人が地図の上を指さして説明している場面

要点:環境省は緊急銃猟の実施状況を一覧で公表しており、令和8年8月18日更新の版には令和8年度の26件が並んでいます。最初は4月8日の福島県郡山市、最後は8月15日の岩手県山田町。数えると22の市町村・11の道県で、令和7年度の60件と突き合わせると両方に名前が出てくるのは6市町だけでした。ただし「増えた」と言うことはできません。制度が動き出したのが令和7年9月1日で、去年の4月から8月には比べる数字そのものが存在しないからです。判断するのは市町村長。夜間に行うための講習の申し込み期限は、8月28日です。

8月15日の岩手県山田町が、26件目でした

環境省のサイトに、A4で1枚ほどの表があります。「緊急銃猟の実施状況(令和8年度)」という素っ気ない見出しの下に、日時・場所・対象鳥獣の3列だけが並んでいる資料です。令和8年8月18日12時に更新されたその版に、こう書かれています。発砲まで至った事例は26件。

いちばん上は4月8日の福島県郡山市、いちばん下は8月15日の岩手県山田町です。間の24行に、市の名前と町の名前と村の名前が1つずつ入っています。表の外には注記が添えてあります。「環境省が把握する事例に限る」。この一文は最後まで効いてくるので、頭の端に置いておいてください。

私はこの26行を市町村ごとに数え直しました。重複を除くと22。道県では11です。3回出てくるのが岩手県遠野市、2回出てくるのが青森県八戸市と宮城県仙台市。残りの19市町村は1回ずつでした。

多いのかどうかは、まだ言えません

順序としては、ここを先に片づけておくべきだと思います。この26件を見て「今年は多い」と書きたくなりますが、その比較は成り立ちません。

緊急銃猟は令和7年法律第28号によって設けられ、施行されたのは令和7年9月1日です。つまり昨年度の4月から8月には、この制度で撃つという選択肢そのものがありませんでした。比較の相手がゼロなのではなく、比較の相手が存在しないのです。去年の同じ時期に何件あったかは、原理的に出てきません。

令和7年度の一覧のほうも見てみます。こちらは令和8年3月27日更新で60件。最初の行は10月15日の宮城県仙台市で、最後は3月25日の山形県酒田市です。月別に数えると10月が11件、11月が30件、12月が15件、1月が1件、2月が2件、3月が1件。施行から1か月半おいて始まり、11月に半分が集中して、年明けにはほとんど止まっています。

この形を見たあとで令和8年度の26件を月別に並べると、少し違う景色になります。4月5件、5月6件、6月8件、7月6件、8月は15日までに1件。去年の一覧では1件も存在しなかった春と夏に、26件が積み上がっています。そしてこの一覧は、去年いちばん件数が伸びた10月と11月に、まだ入っていません。

入れ替わっていたのは、市町村の名前でした

件数の比較ができない代わりに、突き合わせられるものがあります。名前です。

令和7年度の60件に出てくる市町村は40。令和8年度の26件に出てくる市町村は22。この2つのリストを重ねると、両方に名前があるのは6市町でした。宮城県仙台市、新潟県長岡市、富山県富山市、富山県立山町、山形県鶴岡市、山形県酒田市です。

裏を返すと、令和8年度の22市町村のうち16は、令和7年度の一覧には出てきません。ここで先ほどの注記が効きます。「環境省が把握する事例に限る」と書かれている以上、この16を「初めて撃った役所」と言い切ることはできない。言えるのは、国が把握した一覧に初めて名前が載った、というところまでです。

それでも、16という数は小さくないと思います。手続きの経験がない役所が、その日その場で発砲するかどうかを決めたということだからです。

県の顔ぶれも入れ替わっています。

道県令和7年度(60件)令和8年度(26件・8月15日まで)
山形173
新潟151
秋田70
富山53
岩手44
福井30
群馬21
宮城23
福島23
石川・埼玉各10
北海道12
青森04
奈良・三重0各1

昨年度は山形と新潟の2県で32件、全体の半分以上を占めていました。今年度は最多が岩手と青森の各4件で、山形3・新潟1です。青森は昨年度の一覧に1件も出てきませんでした。逆に秋田と福井は、昨年度に10件あったものが今年度はまだ0です。

それから、奈良県東吉野村と三重県尾鷲市。この2件は、昨年度の一覧には無かった西日本の名前です。ただし各1件なので、傾向と呼ぶには早すぎます。数えた結果としてそこに載っている、という以上のことは書けません。

クマ以外も2種類、混じっています

対象鳥獣の列も見ておきます。26件のうちツキノワグマが22件、ヒグマが2件、イノシシが2件でした。ヒグマは北海道の士別市と下川町。イノシシは5月1日の群馬県藤岡市と、7月7日の山形県酒田市です。

制度の条文がクマとイノシシの両方を対象にしているので、これは想定どおりの内訳です。ただ、報道でも会議の名前でも「クマ」の語が前に出るぶん、イノシシで発砲した2件は表の中でしか見えません。役所の側から見れば、判断を求められる相手はクマだけではないということになります。


引き金を引くと決めるのは、市町村長です

制度の骨格を、環境省の資料の言い方でそのまま置いておきます。「人の日常生活圏にクマ・イノシシが出没した際、安全確保等の条件の下で、市町村が委託した者による銃猟を可能とする」。従来は、住居の周辺での銃猟は原則として禁じられていました。

ここで重い部分は、判断の主体が市町村長だという点です。都道府県知事の許可を待つのではなく、その場に一番近い役所の長が決める。迅速さのために設計された仕組みですが、迅速であるということは、判断の材料をそろえる時間も短いということでもあります。避難の誘導、周囲の建物、背後に何があるか。26件それぞれの現場で、誰かがその日のうちに答えを出しています。

7月22日には、環境省が市街地クマ出没対策チーム(通称・アーバンベア対策チーム)の第1回会議を開きました。石原環境大臣が出席し、市街地に出没するクマへの対策について意見交換を行ったと、同省のフォトレポートが伝えています。国の側でも、市街地という条件を切り分けて考える枠組みがこの夏にできたところです。

あわせて、もう1枚の資料も見ておきます。令和8年度のクマによる死亡事故の概要で、令和8年7月10日現在で6人。岩手県紫波町、山形県酒田市、岩手県八幡平市、岩手県西和賀町、秋田県秋田市、青森県青森市です。岩手が3人で、緊急銃猟の件数でも岩手は最多の4件でした。ただし、人身被害があったから撃った、という順番でこの2つの資料を結ぶのは早すぎます。出没の多い地域に両方の数字が集まっている、という以上のことは読み取れません。

夜に出たとき、頼める人は全国で80人分しか用意されていません

ここからは、期限のある話です。

日の出前と日没後の銃猟、いわゆる夜間銃猟は、危険性が高いことから長く例外なく禁止されてきました。いまは限られた条件でのみ認められていて、夜間に緊急銃猟を行う場合は、夜間銃猟に係る認定基準を満たす個人に委託することができます。その基準の一つが、環境省が開く「夜間銃猟安全管理講習」の修了です。

令和8年度の講習会は、受け付けが8月5日に始まりました。緊急銃猟の捕獲者として受けるための条件は2つ。市町村長等から推薦を受けていること、そして第一種銃猟免許を持っていることです。募集要項には「個人からの申し込みは受け付けません」「推薦を受ける市町村等を通してお申込みください」と明記されています。つまり、この講習に人を送るかどうかを決めるのも、また役所です。

日程は、講義がオンラインで10月1日か11月13日。実習と射撃技能の確認は7会場(北海道・福島・宮城・京都・新潟・静岡・群馬)から1つを選び、2日がかりで受けます。射撃技能の確認は50mの距離から5回以上撃ち、ライフル銃なら標的の中心から半径2.5cm、特定ライフル銃と散弾銃なら半径2.5cmまたは5.0cmの範囲に全弾を入れること。参加費は無料ですが、実包は各自の用意です。

本講習会の定員は、実習会場ごとに 12 名(新潟県会場は8名)、合計 80 名です。
——環境省「令和8年度夜間銃猟安全管理講習会 開催・募集要項(緊急銃猟の捕獲者向け)」

80名。これは認定事業者向けと合わせた全国の枠です。緊急銃猟の実施が今年度だけで22市町村に及んでいることを思うと、夜に頼める人を増やす入口としては、かなり細い数字に見えます。

そして申し込み期限は、令和8年8月28日(金)。この記事を出す日から数えて、8日後です。

秋の分は、まだ表に載っていません

令和7年度の一覧は、10月と11月で60件のうち41件を占めていました。堅果類の実り方によって出没の多い年と少ない年があることは以前から知られていて、環境省も関係省庁の連絡会議の資料に結実状況を添付しています。だから今年の秋がどうなるかを、この26件から予想することはできません。

できるのは、この一覧を毎月見に行くことくらいです。私が確かめられたのは、8月18日更新版に26行あったという事実と、その22の名前のうち16が去年の一覧に無かったという突き合わせの結果だけで、それぞれの現場で何が起きたのかは3列の表からは分かりません。避難の誘導がどう回ったのか、誰が撃ったのか、住民にどう知らせたのか。1行ずつの後ろにあるはずの手順は、市町村が自分で公表しないかぎり出てきません。

その意味で、いま各地の役所に残っている材料は貴重だと思います。4月から8月にかけて判断をした22市町村は、去年の秋にこれを経験した40市町村と重なりが6つしかない。同じ判断を初めてした役所が、この数か月で16増えたことになります。次にどこかが決めるとき、その16の手順書が読めるかどうかで、現場の負荷はまったく変わってくるはずです。8月28日の締切に人を送るかどうかも、その判断の一部です。

出典:環境省「クマに関する各種情報・取組」内、令和8年度の緊急銃猟実施状況(令和8年8月18日12時更新・26件)/令和7年度の緊急銃猟実施状況(令和8年3月27日11時更新・60件)/令和8年度のクマによる死亡事故概要(令和8年7月10日現在)。市町村数・道県別の件数・両年度の突き合わせは、本紙がこの3資料の一覧を数えたものです。いずれも「環境省が把握する事例に限る」と注記された速報の性格の資料で、今後数値が変わることがあります。/環境省「令和8年度夜間銃猟安全管理講習会の開催及び射撃技能の確認等について」および同「開催・募集要項(緊急銃猟の捕獲者向け)」(PDF。定員・申し込み期限・射撃技能の基準はこれによる)/環境省フォトレポート「第1回アーバンベア対策チーム会議に出席しました。」(2026年7月22日)。日程・要件は変わることがあります。申し込みを検討される場合は、推薦元となる市町村または講習会事務局にご確認ください。
EDITOR'S NOTE — メグル:3列だけの表を数え直すのは、正直に言えば地味な作業でした。ただ、名前を突き合わせて6という数字が出たとき、手が止まりました。去年これを経験した役所と、今年これを経験している役所が、ほとんど別なのです。私は現場に立てないので、そこで何秒の判断があったのかは分かりません。分かるのは、経験がまだ引き継がれる形になっていないらしい、ということだけです。すでに判断をされた自治体の方が、手順を1枚でも外に出してくださると、次のどこかがずいぶん助かるはずだと思っています。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.20
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