地方創生 — 2026.08.29 NO.085 / TSUGINOTE LOCAL

全国の市町村が、個別避難計画の「未着手」をゼロにしました。ただし、直近1年間に1件も新しく作らなかった自治体が424あります

公民館の一室で、住民と職員が地図を囲んで避難経路を確認している様子

要点:高齢者や障害者など「避難行動要支援者」の避難の道筋を書く個別避難計画について、内閣府と消防庁は2026年6月29日、全国1,741市町村で「未作成」がゼロになったと公表しました。ただし作成率(対象者のうち計画ができた人の割合)が1%以下の自治体は217団体(12.5%)、直近1年間に新規作成がゼロだった自治体は424団体(24.4%)残っています。都道府県別の作成率は香川県67.9%から沖縄県4.8%まで開きがあり、全国計は15.1%にとどまります。

「前回調査における個別避難計画を未作成の団体は50団体(2.9%)であったが、今回調査において全国にて未作成の団体が解消されたことを確認。」——内閣府と消防庁が2026年6月29日に公表した報道資料には、そう書かれています。対象は、災害時に自分だけでは避難することが難しい高齢者や障害者など「避難行動要支援者」について、市町村が一人ひとりの避難支援者・避難先を書き記す個別避難計画です。この計画は2021年の災害対策基本法改正で市町村の努力義務になり、名簿と違って作成そのものは義務ではありません。

「未作成が解消された」という一文だけを読むと、全国の準備が整ったように見えます。ただし同じ資料には、その言葉が指す実態を測るための、もうひとつの数字が載っています。直近1年間に新しい計画を1件も作らなかった市町村は、全国で424団体です。「未作成ではない」というのは「これまでに1件でも作ったことがある」という意味であって、「いまも作業が動いている」という意味ではありません。

作成率という物差しで見ると、順位はほとんど変わっていません

資料は「作成率」という指標も示しています。定義は、各市町村の計画ができた要支援者の人数を、名簿に載っている要支援者の人数で割った値です。言い換えると、計画を作るべき人のうち、実際に作り終えた人の割合です。この物差しで1,741団体を5段階に分けると、次のようになります。

作成率の階級団体数割合前回調査(2025年4月時点)
作成率20%以下911団体52.3%920団体・52.8%
20%超〜40%以下275団体15.8%263団体・15.1%
40%超〜60%以下186団体10.7%153団体・8.8%
60%超〜80%以下112団体6.4%102団体・5.9%
80%超〜100%以下257団体14.8%253団体・14.5%

過半数の市町村がいまも作成率20%以下の階級に入っている状態は、前回調査と変わっていません。資料はこの点について「20%超の全ての階級で増加しており、市町村における作成の取組に一定の進捗が見られた」と評価する一方、作成率が1%以下、つまりほぼ手つかずの団体が217団体(12.5%)あることも書き添えています。「未作成が解消された」という見出しの下には、1%と99%が同じ「作成済み」として並んでいる、ということです。

都道府県で最大14倍。差を分けるのは体制の作り方です

都道府県別に見ると、作成率がもっとも高いのは香川県の67.9%、もっとも低いのは沖縄県の4.8%で、その差はおよそ14倍です。作成率が高い側には香川県のほか徳島県40.9%、鳥取県38.7%、栃木県36.9%が並び、低い側には沖縄県のほか神奈川県4.2%、千葉県7.6%、愛知県7.4%が並びます。人口や高齢化率だけでは説明がつかない開きで、東京都・大阪府・神奈川県のような都市部が上位と下位の両方に入り混じっています。

資料には、実際に取り組んでいる市町村が回答した項目の集計もあります。もっとも多かったのは「地域との連携に取り組んでいる」1,084団体、次いで「本人のことをよく知る方の協力を得て作成に取り組んでいる」1,097団体、「庁内外との連携に取り組んでいる」1,016団体でした。ケアマネジャーなど福祉専門職との連携を挙げた団体は854団体で、対象者本人の同意を取り付けることを挙げた団体は634団体にとどまります。作成が進む団体と進まない団体を分けているのは、名簿の有無ではなく、本人の同意を取り付けるところまで踏み込めているかどうかのようです。

直近1年で伸びたのは、都市部に集中しています

直近1年間(2025年4月2日〜2026年4月1日)に新しく作られた個別避難計画は、全国で198,106人分でした。都道府県別の内訳では、東京都27,604人、大阪府15,613人、神奈川県9,294人、埼玉県8,397人、千葉県7,906人と、上位5都府県はいずれも人口の多い都市部です。母数となる要支援者数も多いため単純な比較はできませんが、動いている自治体には動いているだけの共通点があり、動いていない424団体との差は、来年の同じ調査でさらに開くか縮むかのどちらかです。


私が引っかかるのは、「未作成ゼロ」という見出しの強さです。行政の発表は、達成した項目を前面に出す性質があります。それ自体は不誠実ではありませんが、読む側は見出しの下に何段階もの「作成済み」があることを忘れないほうがいいと思います。もしご自身やご家族が対象になりうる場合、確かめるべきは「自治体に計画があるか」ではなく「自分の計画がどこまで進んでいるか」です。窓口で尋ねれば、担当者は答えてくれるはずです。

出典:内閣府・消防庁「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」(令和8年6月29日公表・令和8年4月1日現在)https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/r8chosa1.pdf/内閣府「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」一覧ページhttps://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/r8chosa.html(いずれも2026年8月29日確認)
EDITOR'S NOTE — メグル:「未作成」「着手」「作成率」——同じ資料の中でも、似た言葉が違う基準で使われています。行政の言葉を読むときは、その言葉がゼロか1件かを見ているのか、100%に対する割合を見ているのかを、まず切り分けることにしています。今回はその切り分けだけで、見出しの印象がだいぶ変わりました。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.29
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