対策を打つほど、「交通空白」は増えていました。
要点:国土交通省によると、生活に必要な移動手段が確保されていない「交通空白」は2026年6月時点で全国2,740地区(前年より683地区増加)、892市区町村・約1,720万人に及びます。同じ6月に参議院で成立した改正地域公共交通法は、市町村主導でバス・タクシー・自家用有償運送の担い手をあっせんする「自動車地域旅客運送サービス再構築事業」を新設しました。ただし異なる運送手段を組み合わせること自体は改正前から可能で、新しいのは自治体が旗を振る手続きの型と、それに伴うみなし許可・財政支援という制度の"箱"です。
「交通空白」。国土交通省が使う言葉で、鉄道もバスも実質使えない地域を指します。駅は近くにあっても列車が1日数本しか来なかったり、バス停までは近くても坂が急で高齢者には歩けなかったり——中身はさまざまです。この交通空白、法改正や対策予算が積み増されるたびに、数だけは増え続けています。
2,740地区、前年より683地区増えた中身
国土交通省は2026年6月10日、全国の交通空白が2,740地区にのぼると発表しました。前年の2025年から683地区の増加です。対象は国土面積の約3割にあたる115,737平方キロ、892市区町村に広がり、居住人口は約1,720万人。総人口のおよそ13%が、交通空白の中で暮らしている計算になります。定義に沿えば、「鉄道駅から500メートル圏内にあっても列車本数が極端に少ない」「バス停から300メートル圏内でも坂道が多く高齢者が歩きづらく、タクシーも呼んですぐには来ない」といった地域が対象です。
数字の内訳を見ると、対応にすでに着手した地区が1,274、対応方針を決めた地区が1,124、方針をまだ検討中の地区が342。「今は空白でないが、対策を打たなければ将来陥る恐れがある」要モニタリング地区も1,498地区・約609万人分あります。今回の2,740という数字は、これまでの取り組みの成果ではなく、むしろ課題の大きさそのものを示しています。
運転手不足とバス減便が押し上げている
交通空白が増えている背景には、運転手不足による供給の減少と、高齢者の免許返納や学校・病院の統廃合による需要の変化があります。地域公共交通の専門メディア「地域公共交通のトリセツ」(塩士圭介氏、2026年8月5日掲載)が国土交通省の資料をもとにまとめたところでは、路線バスの廃止キロ数は平成28年度の883キロから令和6年度には3,887キロまで拡大しました。約10年でおよそ4.4倍です。国土交通省はこの状況を受け、2025〜27年度を「集中対策期間」と位置づけ、「交通空白」解消本部(本部長・金子恭之国土交通相)を設置しています。
改正法で新しくできたこと
2026年3月10日に閣議決定、6月3日に参議院で成立した改正地域公共交通活性化再生法は、年内の施行が見込まれています。柱になるのは、市町村が運送主体を選び、バス・タクシー・自家用有償運送(公共ライドシェアを含む)の担い手を他の事業者からあっせんする「自動車地域旅客運送サービス再構築事業」です。スクールバスや病院の送迎車両の空き時間を住民の足に回す、といった使い方も想定されています。国の認定を受ければ、道路運送法上の許可を受けたものとみなされる特例に加え、交付金などの財政支援や鉄道・運輸機構による出融資も使えるようになります。
このほか、病院・福祉施設・商業施設の送迎サービスの運営者を「施設利用者用運送サービス提供者」として法律に位置づけ、再構築事業への協力を促す規定や、離島航路の船舶検査時に代替運航の協力を得やすくする「海上運送利便確保事業」も新設されました。商工会議所・観光協会・NPO・医療機関などを「連携促進団体」として法定協議会の構成員に位置づけ、地域公共交通計画への提案権を持たせる規定も加わっています。
| 新設された制度 | できるようになること |
|---|---|
| 自動車地域旅客運送サービス再構築事業 | 市町村主導でバス・タクシー・自家用有償運送の担い手をあっせん。みなし許可と財政支援 |
| 施設利用者用運送サービス提供者 | 病院・福祉施設等の送迎サービスを法律上の協力者として位置づけ |
| 連携促進団体 | 商工会議所・観光協会・NPO等に法定協議会での提案権を付与 |
| モビリティデータ提供の応諾義務 | 自治体の情報提供要請を交通事業者が正当な理由なく断れなくなる |
| 海上運送利便確保事業 | 離島航路の船舶検査時、代替運航・貸渡しの協力を得やすくする |
実態は「新しい移動手段」より「手続きの型」
ここで整理しておきたいのは、バス・タクシー・自家用有償運送を組み合わせて走らせること自体は、今回の改正がなくても道路運送法の枠内でもとから可能だったという点です。今回新しくできたのは、市町村が旗を振って複数の担い手をあっせんする手続きの型と、その型に乗って国の認定を受けた場合のみなし許可・財政支援の2点です。道路運送法や鉄道事業法そのものは改正されておらず、既存路線をそのまま維持するための「地域旅客運送サービス継続事業」にも変更はありません。見出しの裏側にある「何が変わって、何が変わっていないか」を掴んでおくと、今後の自治体の動きを追いやすくなります。
モビリティデータ提供の応諾義務について、対象データの範囲や運用の具体的な手続きは条文だけではまだ分かりません。国土交通省は2025年11月から検討会を開き、ガイドラインの策定を進めている段階です。改正法は年内の施行が見込まれていますが、自治体が主導してあっせんする"箱"が実際にどれだけ使われ、2,740という数字がどこまで動くのか。次の集計は来年の見込みで、それまでは自治体ごとの実行力にかかっていると見るのが実態に近いでしょう。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.05
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