「書かない窓口」、検討中の自治体は多いのに実施は進まず。
要点:矢野経済研究所が2026年6月23日に公表した自治体DXの調査(全国354自治体対象、2025年11月〜2026年1月末実施)で、住民との接点(フロントヤード)を変えたいと答えた自治体は86.2%、実施済みと答えたのは37.6%でした。「書かない窓口」は今後の実施予定・検討中が34.6%で、現在どれだけの自治体がすでに使っているかは、この調査の公表分では示されていません。デジタル庁は2026年7月14日更新のダッシュボードで、都道府県・市区町村別の取組状況を公開しています。
「住民との接点を抜本的に見直したい」。自治体へのアンケートに、こう答えた役所は9割近くに上りました。ところが、実際にそこまで手をつけたと答えた役所は、半分にも届いていません。矢野経済研究所が2026年6月に公表した自治体DXの調査が、その差をそのまま映し出しています。
「重点取組事項の筆頭」という評価が、まず目を引く
矢野経済研究所の発表文は、この取り組みをこう説明しています。「成長領域の1つであるフロントヤード改革は、住民と行政との接点(フロントヤード)のあり方を抜本的に見直し、デジタル技術を活用して住民の利便性向上と職員の業務効率化を同時に実現する取り組みである。手書きの排除、待ち時間の最小化、必要な手続きのナビゲーション、行政手続きのオンライン化などの実現を目指すもので、自治体DXの重点取組事項の筆頭に位置づけられる」。平たく言えば、紙に手書きで申請書を書かせる窓口のやり方そのものを見直す取り組みで、数ある自治体DXの施策のなかでも、最優先に扱われているテーマだ、という意味です。
住民の側から見れば、「書かない窓口」が広がるかどうかは、転入・転出や出生の届出で何度も同じ住所・氏名を手で書かされるかどうかの違いになります。窓口の職員が端末で本人確認の情報を呼び出し、申請書の下書きまで職員側が作る形にすれば、住民はそれを確認して署名するだけで済みます。どこまでこの形に近づいているかは、自治体ごとにばらつきがある、というのが今回の調査の読み方です。
「やりたい」86.2%と「もうやった」37.6%
矢野経済研究所は2026年6月23日、全国の市区町村354自治体を対象に、2025年11月から2026年1月末にかけて実施した調査の結果を公表しました。フロントヤード改革への「今後の注力意向」を示した自治体は86.2%に達した一方、「実施済み」と答えた割合は37.6%にとどまっています。実施済みの内訳で割合が高かったのは、証明書のコンビニ交付(84.7%)、行政手続きのオンライン化(73.6%)、キャッシュレス決済(68.1%)でした。逆に実施の割合が低かったのは、リモート窓口(13.1%)と移動窓口(14.3%)で、どちらも「実施予定なし」と答えた自治体がそれぞれ58.7%、67.6%に上ったといいます。
「書かない窓口」は、まだ検討中の棚にある
今後の実施予定・検討中と回答した割合が高かったのは、ワンストップ窓口(36.3%)、書かない窓口(34.6%)、手続き案内システム(30.0%)でした。矢野経済研究所はこの結果を「円滑で利便性の高い行政サービスや、来庁を前提としない住民対応に向けた取り組みへの関心が高まっている」とまとめています。平たく言えば、紙に書かせない窓口そのものはまだ少数派だが、やりたいと考えている役所は増えている、ということです。
ここで一つ、正直に書いておきたいことがあります。この調査が公表している範囲では、「書かない窓口」を今後やりたいと答えた自治体の割合は示されていますが、現在すでに使っている自治体がどれだけあるかという割合は出てきません。「実施済み」として名前が挙がったのはコンビニ交付・オンライン化・キャッシュレスの3つだけで、書かない窓口はそこに入っていないのです。検討中の多さと、実施済みの少なさを、同じものさしで比べられない――これも、この調査を読むときに留めておきたい点です。
国も「見える化」を始めている
総務省とデジタル庁は、自治体フロントヤード改革の取組状況を可視化する「自治体フロントヤード改革の取組状況に関するダッシュボード」を公開しています。2026年7月14日に更新され、都道府県別・市区町村別の取組状況が、それぞれ専用の画面で確認できます。デジタル庁のページは「本ダッシュボードでは、フロントヤード改革の取組状況を見える化し、他自治体が参考にできるようにすることで、更なる取組の加速化を目指しています」と説明しています。言い換えれば、よその役所が何をやっているかを、同じ物差しで比べられるようにした、ということです。
このダッシュボードには、総務省の「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」で選ばれた団体の一覧も載っています。令和6年度は、人口1万人未満の枠で山形県西川町、人口1万人以上5万人未満の枠で佐賀県嬉野市、人口5万人以上10万人未満の枠で大阪府河内長野市が選ばれました。令和5年度は、人口1万人未満の枠で北海道上川町と鹿児島県瀬戸内町が選ばれています。人口規模ごとに枠を分けているのは、小さな役所と大きな役所では、使える人手も予算も違うという考え方によるものです。
「変えたい」と答えた自治体の数と、「もう変えた」と答えた自治体の数の差は、やる気の問題というより、人手と予算の配分の問題かもしれません。自分の住む自治体が書かない窓口をどこまで進めているかを知りたければ、矢野経済研究所の報告書を取り寄せるか、デジタル庁のダッシュボードで都道府県・市区町村を選んで確かめてみるのが早道です。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.10.09
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