自治体DX — 2026.07.30 THU NO.032 / TSUGINOTE LOCAL

自治体の生成AI、いちばん多い用途は「あいさつ文案」で1,292件。
横浜と仙台が選挙事務で試したのは、反対側の仕事だった

役所の相談窓口で、職員がタブレットとチラシを机に広げながら来庁した住民に説明している場面

要点:総務省が4月に公表した令和7年度の調査(1,788団体・回答率100%)で、自治体の生成AIの用途として最も多く挙がったのは「あいさつ文案の作成」の1,292件でした。上位は、白紙から文章を作る仕事で埋まっています。一方、業務知識を読み込ませてカスタマイズしている件数は390件。7月6日に発表されたNECとぎょうせいの選挙事務向け実証は、この少数側に入る試みです。評価は「9割」「7割」と出ましたが、そのまま他のまちへ持ち出せない条件が、同じ発表文のなかに書かれています。

選挙は、毎年来る仕事ではありません。地方選は4年に一度、国政選挙も数年おき。その間に人事異動が挟まります。担当が入れ替わったところへ、公職選挙法と判例と、前回までの運用の積み重ねが一度に降ってくる。だから選挙管理委員会事務局の仕事は、ベテラン職員一人の記憶に寄りかかりやすい、と長く言われてきました。

NECと、法令出版で実績のある株式会社ぎょうせいが7月6日に公表した実証実験は、この「不定期な仕事」を対象にしています。横浜市選挙管理委員会事務局と仙台市選挙管理委員会事務局の協力で、2026年5月から6月末まで。市民や候補者からの問い合わせに答える市民応対業務を、生成AIで支えられるかを試したものです。

ただ、この一件だけを見ても大きさが分かりません。まず、いまの自治体が生成AIを何に使っているのかを並べてみます。


上位を埋めているのは「白紙から文章を作る」仕事

総務省は令和8年4月24日に、令和7年度の「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の結果を公表しました。都道府県47と市区町村1,741の計1,788団体が対象で、回答率は100%。調査基準日は令和7年10月31日です。

導入状況は、都道府県と指定都市が100%。その他の市区町村は45.6%で、実証実験中・導入予定・導入検討中を含めると約88%が何らかの形で動いている、という整理でした。自治体DXのなかでも、生成AIは入り口の段階を過ぎたことになります。

問題は、入ったあとに何をさせているかです。活用事例(複数回答)の上位はこうなっていました。

活用事例令和7年令和6年
あいさつ文案の作成1,292件875件
議事録の要約1,131件755件
議会の想定問答の文案の作成1,085件602件
メール文案の作成1,052件635件
企画書案の作成997件638件
住民等への質問に対する回答案の作成848件455件
マニュアル案の作成730件365件
庁内情報の検索355件

並べてみると、性質がはっきりします。上位は「これから書く文章の下書き」です。あいさつ文、メール、企画書。間違っていても書き直せるもの、そして間違いを職員がその場で判別できるものが並んでいます。

それに対して「庁内情報の検索」は355件。手元にある正しい答えをAIに探させる用途は、まだ薄い。

もう一つ、同じ調査に踏み込んだ数字があります。導入している生成AIをカスタマイズしているかを聞いた結果は、「している」が390件、「していない」が1,353件でした。カスタマイズの方法は、外部の業務知識を参照させるRAGが329件で最多、API連携が24件、ファインチューニングが19件。

つまり大半の自治体は、素のままの生成AIに文章を書かせています。自分たちの法令・マニュアル・FAQを読ませているのは、二千件近い回答のうち三百件台です。


選挙事務は、この構図のどこに置かれるか

選挙管理委員会事務局に来る問い合わせは、下書きで済みません。公職選挙法で何が制限されるか、過去の判例がどう扱ってきたか。答えを間違えれば、市民の権利行使や候補者の活動に直接ぶつかります。書き直しの余地が小さい仕事です。

この種の仕事に事故が起きうることは、国も記録に残しています。総務省が国政選挙のたびに各地の選管からの報告をまとめている「管理執行上問題となった事項」の総括では、たとえば令和元年7月の参議院議員通常選挙で、投票関係の第一項目として投票用紙の交付誤りが67件挙げられていました。7年前の資料ですが、投票用紙の交付、本人確認、集計といった手順の間違いが毎回一定数出るという性質は、そこに書かれています。

そして選挙事務には、他の窓口業務と違う制約があります。件数が少なく、間隔が長い。日々こなして身体で覚える、という習得のしかたが成立しません。NECの発表文も、課題をこう説明しています。選挙の開催が不定期であることから職員間でのノウハウ定着が難しく、ベテラン職員へ依存した業務体制になっていた、と。

文案を書かせる用途とは、必要とされているものが違います。求められているのは、新しい文章ではなく、正しい参照です。


実証が実装したのは、答えより「根拠」だった

発表された仕組みは、三つの部品でできています。

一つ目は参照先です。NECが従来提供している「NEC自治体支援生成AIサービス」の上に、ぎょうせいの選挙専門書籍のデータを取り込んだ実証用の環境を構築し、あわせて自治体が独自に整備しているFAQも参照させました。「公職選挙法で制限されている挨拶にはどのようなものがあるか」といった自然な文章で聞けば、書籍に基づく情報と、その根拠となる法令や文献が返ってくる形です。

二つ目は、根拠の提示そのものです。回答だけを出すのではなく、どの法令・どの文献に基づくかを添える。三つ目が、ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する現象)のチェック機能と、e-Gov法令検索との連携です。職員がダブルチェックできる導線を、回答機能とは別に用意した、と説明されています。

実証後のアンケートでは、両市あわせて利用者の9割以上が回答精度を「正確」と評価し、7割以上が「業務効率化に寄与する」と回答しました。

ここは慎重に読みたいところです。9割・7割はいずれも利用者の主観評価であり、何時間分の作業が減ったかという数字は公表されていません。同じ総務省調査には、文章作成業務で1か月190時間かかっていたものが51時間になった(73%削減、人口5.1万人規模)といった時間の実例が並んでいます。今回の実証には、その種の数字がまだない。減ったと感じた人の割合と、減った時間は別のものです。判断は保留します。


そのまま真似できない条件は、同じ発表文に書いてある

私がこの実証で目を留めたのは、成果の側ではなく、注記の側でした。

発表文には、書籍内容をサービスに利用することについて、当該書籍の著作権者から個別に許諾を得て実施したと明記されています。つまり「手元の実務書をAIに読ませればよい」という話ではありません。参照させるコンテンツを、権利処理を通してから使っている。ここが、自治体が自前で追いかけにくい部分です。

参照先のもう半分、自治体独自のFAQも同じ性質を持ちます。整備されている自治体には読ませるものがあり、整備されていない自治体には読ませるものがない。総務省調査でカスタマイズ対象とされた業務知識の上位は、マニュアル・議会会議録・法令・FAQ集・計画でした。逆から言えば、この手の文書を揃えている団体から順に効く仕組みだということです。

予算の桁も違います。同じ調査で、生成AIの導入コストは「0円」が705件で最多、年間のランニングコストも「0円」が468件で最多でした。無料で使える環境に文章を書かせるのと、許諾を取った専門書籍を参照させる環境を維持するのは、同じ「生成AIの導入」という言葉のなかにある別の行為です。

足元の備えにも差があります。生成AI利用のガイドラインは、策定済853団体、策定中198団体、未策定737団体。導入済みの団体では81%が策定済ですが、実証中の団体では38%にとどまります。導入における課題として最も多く挙がったのは「AI生成物の正確性への懸念」、次いで「取り組むための人材がいない又は不足している」でした。

正確性への懸念が課題の一位で、正確性を担保する仕組み(根拠提示・ダブルチェック)を持つ環境が三百件台。この差が埋まらないかぎり、生成AIは「間違っても書き直せる仕事」の外へは出にくい。


私が次に確かめたいこと

実証は6月末で終わっています。9割・7割という数字は、続くかどうかを保証しません。

次に見るのは二つです。ひとつは、両市の選管がこの仕組みを予算要求の形にするか。実証で終わった道具は、ノウハウ継承の役には立ちません。もうひとつは、他の自治体が真似をするとき、順番を守るかどうかです。参照させる文書を先に整えるのか、環境だけ先に契約するのか。後者から始めると、根拠を出せるはずのAIが、根拠のない答えを返す側に回ります。

選挙事務は、たまたま「間違えられない・頻度が低い・文書が揃っている」の三つが重なった業務でした。同じ三つが重なる仕事は、どの役所にも一つか二つあります。自分のまちのそれが何かを、先に決めておくほうが早いはずです。

出典:日本電気株式会社「NECとぎょうせい、横浜市と仙台市の協力のもと生成AIを活用した選挙事務効率化の実証実験を実施」(2026年7月6日・PR TIMES)/総務省「令和7年度『地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査』の調査結果の公表」(令和8年4月24日)および同「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)令和8年4月24日版」/総務省「令和元年7月21日執行 参議院議員通常選挙 管理執行上問題となった事項について(総括)」。数値は各一次資料の公表値。生成AIの導入状況は令和7年10月31日時点、実証の評価は利用者アンケートに基づく主観評価であり、業務削減時間は公表されていない。
EDITOR'S NOTE — メグル:発表文で最初に読むべきは、成果の数字より注記だと思っています。今回は「著作権者から個別に許諾を得て実施」の一行がそれでした。ここを飛ばすと、同じことができるつもりで見積もりを取ることになります。