地方創生 — 2026.07.29 WED NO.030 / TSUGINOTE LOCAL

国の地方戦略は、7か月で書き換えられた。
新しい計画には「撤退基準」の文字がある

公民館の大机でまちの地図と付箋を囲み、住民と若者が計画づくりのワークショップをしている場面

要点:2026年7月21日、「地域未来戦略」が閣議決定されました。産業クラスターを3類型の計画(国主導の戦略産業クラスター計画/都道府県主導の地域産業クラスター計画/市町村・都道府県の地場産業成長プラン)で形成し、既存予算とは別枠で投資を進める、産業政策に重心を置いた地方戦略です。法的には昨年12月23日に閣議決定された「地方創生に関する総合戦略」の変更で、間隔は7か月。地方向け総合戦略の看板は、この12年で4枚目になります。計画の要件には、これまでの地方創生の文書にはあまり見なかった言葉が入りました。KPI未達時の「撤退基準」です。

新しい戦略の名前には、「地方創生」の4文字が入っていません。

7月21日に閣議決定された「地域未来戦略」。同じ日に閣議決定された「日本成長戦略」と対になって、地方に大規模な投資を呼び込み、各地に産業クラスターを形成していくという、経済に重心を置いた地方戦略です。計画期間は2030年度まで。目標には「47都道府県のどこに住んでいても、安全に生活することができ、必要な医療・福祉や質の高い教育を受けることができ、働く場所がある社会」を掲げています。

柱になるのは3つの類型の計画です。AI・半導体、造船、航空・宇宙など17の戦略分野に関連する企業の大規模投資を起点に、国が前に出てインフラや人材育成を整える「戦略産業クラスター計画」。都道府県知事が主導し、海外輸出や国内上位シェアを狙う産業を育てる「地域産業クラスター計画」。そして市町村または都道府県が、農林水産業・観光・伝統的工芸品など地域資源を活かした産業の成長を図る「地場産業成長プラン」。これらの投資を、新設する『「強く豊かな日本」投資枠』も使い、既存の予算とは別枠で進めると書かれています。

こうした予算は、当初予算で大胆かつ計画的に措置し、予見可能性の高い予算措置の下で、国と地方公共団体が二人三脚で、日本列島に「産業クラスターの花」を咲かせていく。(「地域未来戦略」第1章)

法的には「新しい戦略」ではなく「変更」

戦略本文の最初の脚注に、この文書の正体が書かれています。地域未来戦略は、まち・ひと・しごと創生法第8条に規定する総合戦略として策定された「地方創生に関する総合戦略」(令和7年12月23日閣議決定)を、同条の規定に基づき「変更するもの」。つまり法律上は、7か月前に閣議決定された戦略の書き換えです。

石破内閣が2025年6月に閣議決定した「地方創生2.0基本構想」はどうなったのか。本文の脚注では、その内容を「踏まえつつ進める」とされています。一方、推進体制の側は掛け替えられました。地域未来戦略本部が2025年11月11日の閣議決定で設置され、地方創生2.0を担った「新しい地方経済・生活環境創生本部」は、内閣官房のページで「以前開催していた会議等」の欄に移っています。報道では「地方創生2.0は廃止」という見出しも打たれました。

地方向けの総合戦略という同じ器で数えると、看板はこうなります。

閣議決定戦略の名前前の戦略からの間隔
2014年12月まち・ひと・しごと創生総合戦略—(初代)
2022年12月デジタル田園都市国家構想総合戦略8年
2025年12月地方創生に関する総合戦略3年
2026年7月地域未来戦略(上記の変更)7か月

間隔は8年、3年、7か月と縮んでいます。交付金の名前も並走して変わってきました。デジタル田園都市国家構想交付金、新しい地方経済・生活環境創生交付金、そして地域未来交付金。内閣府の交付金ページには、いまも旧2交付金が「参考」として並んでいます。年度をまたいで事業を組む自治体の側から見ると、根拠になる紙と申請の窓口の名前が、この3年で三度変わったことになります。

これまでの文書になかった言葉

では中身は看板の掛け替えだけなのか。読み比べると、仕掛けの部分に従来の地方創生の文書とは手触りの違う言葉が入っています。

ひとつは「撤退基準」です。地域産業クラスター計画と地場産業成長プランの要件には、計画最終年度の目標値(KGI)とKPIに加えて「KPI未達時の撤退基準を設定していること」が明記されました。うまくいかなかったときにやめる条件を、始める前に書かせる。地方創生の交付金事業が「一度始まると検証されないまま続く」と指摘されてきたことへの応答とも読めます。

数値目標の立て付けも固定されました。戦略産業クラスター計画と地域産業クラスター計画のKGIは、官民設備投資額・産業ニーズに即した人材育成数・付加価値増加額の3点を必ず設定するとされ、戦略産業クラスター計画は半年に1回程度の頻度で進捗を確認し、結果を公表する仕組みです。各地域の投資がどこまで進んでいるかを地図上に可視化する「国内投資マップ」の定期改訂も書き込まれました。目標の置き方と検証の周期を先に決めてしまう設計は、KPIの数が膨らんで総花的になったと総括されてきた過去の総合戦略とは違う型です。

もうひとつ、地方をAIトランスフォーメーション(AX)の「始まりの場所」とすると明記された点も、自治体DXの文脈では見逃せません。自治体AXや地域AXの推進、中小企業のAX支援が施策例として並びます。人手不足を理由に挙げた上で、AIの活用を地方から先に進めるという書きぶりです。


市町村が直接触るのは3つ目の計画

戦略産業クラスター計画は国と都道府県、地域産業クラスター計画は都道府県の仕事です。市町村が計画の主体になれるのは地場産業成長プランで、対象は農林水産業、食品加工業、観光・スポーツビジネス、伝統的工芸品など、地域に根ざした産業。個々の規模は小さくても面的に地域経済を支える産業を、付加価値の向上と域外・海外需要の獲得で伸ばすという位置づけです。

要件を読むと、求められるのは大きな投資ではありません。実現する製品・サービスと市場ニーズが特定されていること。核となる事業主体(企業・組合・個人事業主)が存在すること。特定の大企業やフランチャイザーに過度に依存しないこと。事業主体への相談窓口を置くこと。そしてKGI・KPIと撤退基準。プラン案は市町村がつくり、内閣官房と経済産業省の事前確認を経て公表される流れです。

各自治体に対しては、この戦略を勘案して地方版総合戦略を策定する努力義務が引き続き置かれています。12月の戦略に合わせて改訂作業を進めていた自治体は、7か月でもう一度国の文書と向き合うことになります。

過去の看板の掛け替えでは、名前が変わっても交付金事業の多くが継続案件として引き継がれてきました。今回も既存の取組は「これまでの地方創生で進めてきた取組も含めた全体戦略」として戦略の中に残っています。変わったのは、その上に載る産業政策の層と、目標と撤退の書かせ方。ここが実際に運用されるのか、それとも次の看板が来るのが先か。判断材料が最初に出るのは、「地域未来戦略予算パッケージ」がつくられるこの先の予算編成です。

自治体の現場でこの夏にできることを一つ挙げるなら、地場産業成長プランの要件6項目を読み、自分のまちで「核となる事業主体」を具体名で挙げられるかを庁内で確かめておくことだと思います。挙げられなければ、計画の紙より先に足りないものが分かります。

出典:内閣官房「地域未来戦略」(令和8年7月21日閣議決定・本文/概要、まち・ひと・しごと創生法第8条に基づく「地方創生に関する総合戦略」=令和7年12月23日閣議決定の変更である旨は本文脚注1、地方創生2.0基本構想を「踏まえつつ進める」は脚注7、17の戦略分野・3類型の計画要件・KGI/KPI・撤退基準・『「強く豊かな日本」投資枠』・国内投資マップ・AX・半年に1回程度の進捗確認の各記載)、内閣官房「地域未来戦略本部」ページ(本部設置=令和7年11月11日閣議決定、「新しい地方経済・生活環境創生本部」「デジタル田園都市国家構想実現会議」が「以前開催していた会議等」に掲載)、内閣府地方創生サイト「地域未来交付金」ページ(新しい地方経済・生活環境創生交付金/デジタル田園都市国家構想交付金が「参考」として掲載)、Sustainable Japan「政府、『地域未来戦略』閣議決定。地方創生で産業政策を最優先。地方創生2.0は廃止」(2026年7月22日)。数値・引用はいずれも2026年7月29日時点の公表資料によります。
EDITOR'S NOTE — メグル:政策の文書を読むとき、私は新しい言葉より「前の文書がどう処理されたか」を先に探します。今回は脚注に答えがありました。廃止でも継承でもなく「変更」。この一語で、12月の戦略づくりに費やされた各地の作業が宙に浮かずに済む一方、7か月で書き換わる紙を勘案し続ける実務も残ります。撤退基準という言葉が現場でどう運用されるか。書かせて終わりなら、それもまた看板です。