自治体DX — 2026.08.09 NO.050 / TSUGINOTE LOCAL

熊本の役所に届いたデジタル支援は二種類あります。片方は、8月中に消えます

雨の降る庁舎前で、職員と住民が土のうを積み上げて災害対応にあたっている場面

要点:令和8年熊本地震の翌日、7月29日に、被災自治体へ2つのデジタル支援が届きました。ひとつはデジタル庁が生成AI利用環境「源内」を緊急提供したもので、期間は3週間程度と最初から書かれています。もうひとつは罹災証明書のマイナポータルからのオンライン申請で、こちらは同日時点で熊本県内16自治体が対応。片方は発災後に配られ、片方は地震の前に用意してありました。この差がどこから来ているのかを、平時の統計と並べて確かめます。

地震があったのは7月28日16時27分でした。気象庁マグニチュード7.1、最大震度7を宇城市と八代郡氷川町で観測しています。陸域でM7.0以上かつ最大震度5強以上という基準を満たしたため、気象庁はこの地震と、以降に続く一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と名づけました。

その翌日、7月29日に、被災自治体の担当者のもとへ届いた行政デジタル関連の知らせが2つあります。並べてみると、性格がかなり違いました。

3週間で終わると、最初に書いてあった支援

ひとつめは、デジタル庁によるガバメントAI「源内」の緊急提供です。源内はもともと政府職員向けの生成AI利用環境で、それを被災自治体・関係自治体・災害対策機関などに開放するという発表でした。提供開始は同日11時めど。終了は「3週間程度」と、この時点で示されています。

提供されたのは対話型AIの「チャット」と一部のAIアプリ、それにプロンプト例です。用途として挙がっているのは、通知文の作成、資料の要約、ウェブ検索と組み合わせた最新情報の調査、法制度の調査、翻訳、音声の文字起こし、既存のExcelファイルを分析しやすい表形式に変換する処理など。データストレージやデータ共有の機能は含まれていません。利用申し込みは専用ページで受け付け、申込者のメールアドレスへ利用リンクが即時送られる仕組みでした。

デジタル庁はこの提供を「地震への対応を目的とした試験的・臨時的なもの」と位置づけ、災害対応に関係のない用途での利用は控えるよう求めています。期限と用途の制限が、渡す側から先に添えられている。これは配布の設計です。

地震の前に、済ませてあった支援

ふたつめは、罹災証明書のオンライン申請でした。罹災証明書は、災害で住家に被害を受けた人の申請にもとづき、市町村長が被害の程度を証明する書面です。災害対策基本法第90条の2で、申請があったときは遅滞なく調査して交付しなければならないと定められています。被災者生活再建支援金の給付、税・保険料・公共料金の減免や猶予、応急仮設住宅の入居判断など、この一枚が起点になる手続きは多い。

この申請が、役所に行かずマイナンバーカードとマイナポータルで出せるようになりました。ただし、出せるかどうかは自治体ごとに違います。7月29日時点で対応していたのは、熊本市・八代市・水俣市・山鹿市・菊池市・宇土市・上天草市・天草市・合志市・美里町・菊陽町・御船町・益城町・氷川町・芦北町・津奈木町の16自治体です。

熊本県の市町村は45(14市23町8村)。単純に割れば、発災の翌日にオンライン申請の窓口を開けていたのは3分の1強でした。残りは窓口での受付から始まります。熊本市は7月30日に、全5区役所と総合出張所7か所で申請受付を始めています。

ここが分かれ目だと思っています。マイナポータルの申請フォームは、地震が起きてから作れるものではありません。事前に電子申請の設定を済ませ、庁内で受け取る側の手順を決めてあった自治体だけが、翌日から使えた。片方は外から配られ、片方は自分で持っていた。

 源内の緊急提供罹災証明書のオンライン申請
届いた日7月29日11時めど7月29日時点で稼働
期限3週間程度で終了予定期限の定めなし
使える条件申し込めばリンクが即時発行されるその自治体が事前に対応していること
用途の制限災害対応に関係のない用途は控えるよう要請罹災証明書の交付申請
整えた時期発災の翌日地震の前

※オンライン申請の対応自治体は、その後に増えている可能性があります。実際に申請する方は各自治体の案内で最新の状況をご確認ください。

配られた機能は、平時のリストとほぼ同じでした

源内が緊急提供した機能の一覧を見て、既視感がありました。総務省が毎年出している自治体の生成AI導入状況調査と、並びがよく似ています。

令和7年度の調査は、1,788の都道府県・市区町村すべてから回答を得たもので、令和7年10月31日時点の状況をまとめています。導入済み団体が挙げた活用事例の上位は、あいさつ文案の作成が1,292件、議事録の要約が1,131件、議会の想定問答の文案作成が1,085件、メール文案の作成が1,052件、企画書案の作成が997件。翻訳は669件でした。

通知文を書く、要約する、翻訳する、文字起こしをする。源内が被災地に渡したのは、平時にすでに使われている機能とほぼ同じものです。つまりこの緊急提供は、新しい道具を発明して届けたのではなく、持っていない自治体に、持っている自治体と同じ機能を一時的に渡したものだと読めます。

同じ調査で、生成AIの導入済み団体の割合は、都道府県と指定都市が100%、その他の市区町村が45.6%でした。実証中・導入予定・導入検討中を含めれば約88%が何らかの形で動いています。ただし、この45.6%は全国の集計であって、熊本県内の内訳を示す数字ではありません。概要資料に県別の内訳は載っておらず、被災した市町村がどちら側だったかは、この資料からは分かりません。

もうひとつ気になった数字があります。生成AI利用のガイドラインを策定済みの団体は853、未策定は737でした。未策定の組織が非常時に初めて生成AIに触れるとき、使い方のルールも同時に受け取ることになります。デジタル庁が「災害対応に関係のない用途は控えて」と一行添えたのは、その空白を埋める役目も持っていたのだろうと思います。同じ調査で導入の課題の一位が「AI生成物の正確性への懸念」だったことを踏まえると、災害情報を扱う場面でこの一行は軽くありません。


8月中旬を過ぎたとき、何が残るのか

7月29日から3週間程度なら、源内の提供は8月中旬に終わる見通しです。デジタル庁は終了日を明示していないので、日付は断定できません。ただ、終わる前提で組まれていることだけははっきりしています。

終わったあと、被災自治体の手元に残るものは3つに分かれるはずです。ひとつ、平時から自前の生成AI環境を契約している自治体には、その環境が残る。ふたつ、この3週間に書きためたプロンプトや作業手順は、記録に落としてあれば残り、頭の中だけなら残らない。みっつ、源内そのものは消えます。

成功事例として語るには早すぎる話だと思っています。私が確かめたいのは、災害対応が長引く秋以降に、この3週間を経験した自治体が自前の環境を持ったかどうかです。持たなければ、次の災害でもまた3週間の緊急提供を待つことになります。罹災証明書のオンライン申請のように、地震の前に済ませておく側へ回れるかどうか。8月中旬を過ぎたころに、もう一度この件を見に行きます。

出典:気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」(jma.go.jp)/ITmedia AI+「デジタル庁、AI基盤『源内』を被災自治体などに緊急提供」2026年7月29日(itmedia.co.jp)/Impress Watch「熊本地震の罹災証明書をオンライン申請可能に デジ庁が紹介」2026年7月30日(watch.impress.co.jp)/内閣府「罹災証明書」制度概要(bousai.go.jp)/総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)」令和8年4月24日版(soumu.go.jp)/熊本県「熊本県市町村要覧(令和7年度版)」(pref.kumamoto.jp)/熊本県「令和8年熊本地震に関する情報」(pref.kumamoto.jp)。いずれも2026年8月9日確認。
EDITOR'S NOTE — メグル:災害のたびに「AIが役立った」という話は出ます。ただ私が見たいのは、配られた3週間ではなく、その3週間が終わったあとの月です。罹災証明書のオンライン申請が翌日から動いた16自治体は、地震の日に何かを頑張ったのではなく、何もない日にフォームの設定を終えていた。次の一手は、たぶんそちら側にあります。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.09
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