産直・お取り寄せ — 2026.08.22 NO.073 / TSUGINOTE LOCAL

ひやおろしは、火入れを2回から1回に減らした酒。9月に棚で確かめるのは、まず瓶詰めの年月

蔵の作業場で、蒸したばかりの米から湯気が立っている

要点:ひやおろしは、貯蔵の前に一度だけ加熱し、出荷のときは加熱しない酒を指す。国税庁の資料によれば、生酒と生貯蔵酒を除く清酒は通常、貯蔵する前と出荷する前の2回加熱している。その2回目を省いた形にあたる。ただし「ひやおろし」も「生詰」も、清酒の製法品質表示基準に定義のある用語ではない。しかも瓶詰めの年月(製造時期)の表示は、令和5年1月1日から義務ではなく任意になった。だから9月に買うなら、製造時期があるか、保存の指示があるか、どの温度の棚に置かれているかを自分で見る。

9月になると、去年の冬に搾られた酒が棚へ出てくる。「ひやおろし」と書いてある。

私はその酒を飲めない。飲めないから、工程のほうを数える。数えると、この酒は「足したもの」ではなく「省いたもの」でできていた。

火入れは2回ある。抜いたのは2回目

国税庁が公開している「清酒の製法品質表示基準」の概要に、参考として一文が置かれている。生酒、生貯蔵酒以外の清酒は、通常、貯蔵する前と出荷する前の2回加熱処理をしている、という記述だ。

つまり普通の清酒は、搾ったあと一度熱を通してタンクへ入れ、瓶に詰める前にもう一度熱を通す。ひやおろしと呼ばれる酒は、この2回目をしない。1回目は済ませてある。だから「生酒」ではない。

加熱の回数が1回減ると、蔵から店、店から台所までの温度が、そのまま瓶の中身の履歴になる。工程が短いのではなく、工程の最後の一手を運ぶ側へ渡した酒だと言える。

ラベルの「ひやおろし」は、基準の言葉ではない

ここが調べていて一番おもしろかった。生詰めという言い方も含めて、表示基準の任意記載事項に並んでいる用語は、原料米の品種名、清酒の産地名、貯蔵年数、原酒、生酒、生貯蔵酒、生一本、樽酒、「極上」などの品質が優れている印象を与える用語、そして製造時期である。「ひやおろし」も「生詰」も、この列にいない。

基準が定義している近い言葉は2つだけで、どちらもひやおろしには当たらない。

用語基準での定義ひやおろしは
生酒製成後、一切加熱処理をしない清酒当たらない(貯蔵前に1回している)
生貯蔵酒製成後、加熱処理をしないで貯蔵し、出荷の際に加熱処理した清酒当たらない(加熱の順番が逆)
貯蔵年数1年未満の端数を切り捨てた年数で表示するひと夏では数字が立たない

生貯蔵酒との関係が、私には一番わかりやすかった。生貯蔵酒は「置くときは生、出すときに火」。ひやおろしは「置く前に火、出すときは生」。同じ2つの工程を、順番だけ入れ替えている。名前が似ているのに、瓶の中で起きたことは反対だ。

語源についても調べた。「冷や」で「卸す」から来ているという説明は多く見つかったが、一次資料で確かめられなかったので、ここには書かない。

2023年から、瓶詰めの年月は書かなくてよくなった

ひと夏をどこで越した酒なのか。外から知る手がかりは、ほとんど瓶詰めの日付しかない。その日付の扱いが、3年前に変わっている。

令和4年に清酒の製法品質表示基準が改正され、令和5年1月1日から施行された。国税審議会に出された資料には、改正の中身がこう書かれている。製造時期表示について、食品の国際規格であるコーデックス規格や食品表示基準に沿って、必要記載事項から任意記載事項に変更する。あわせて、容器詰めした年月という原則の代わりに、商品特性に応じた日付表示(出荷等の時期)を可能にする。具体的な日付表示は日本酒造組合中央会において明確化する、という注も付いている。

改正前の基準には、製造時期の書き方まで例示があった。製造年月 令和元年5月、1.5、2019.5、19.5の4通りだ。ここでいう製造時期は「販売する目的をもって容器に充塡し密封した時期」なので、酒が生まれた月ではなく、瓶に入った月を指す。

この日付が任意記載になった。書いてある瓶もあるだろうし、書いていない瓶もあるだろう。どちらの割合が多いかは、棚を実際に数えていないので書かない。書けるのは、無くても基準に反しないという一点だけだ。

保存の注意が義務なのは「生酒」だけ

もう一つ、条文を読んで意外だった箇所がある。必要記載事項に残っている「保存又は飲用上の注意事項」は、製成後一切加熱処理をしないで製造場から移出する清酒に表示する、と定められている。対象は生酒だ。

ひやおろしは1回加熱している。だからこの義務の側にはいない。瓶に「冷蔵で保存」「開封後はお早めに」と書いてあれば、それは制度に押されて書いた文字ではなく、蔵が自分で足した文字である。

義務でないものは、書いてあることのほうが情報になる。私はそう読んだ。

9月9日は、誰が決めた日か

解禁日として広く紹介されている9月9日は、法令の日付ではない。表示基準にも酒類業組合法にも、季節の酒の解禁日という規定は出てこない。

長野県酒造組合は、9月9日を「ひやおろし」の解禁日として案内している。同じ日が五節句の最後、重陽の節句にあたる、という記事を組合が出している。菊の香りを移した菊酒の話が続き、解禁日と重ねて楽しむ提案になっている。

逆に言えば、買える日を決めているのは国ではなく蔵と組合の申し合わせだ。だから9月9日を待たずに出る蔵もあるし、遅い蔵もある。日付は蔵の告知でしか確定しない。

棚の前で見るところ

味の話は私にはできない。できるのは、瓶の外側から読み取れるものを並べることだけだ。

1つ、製造時期の記載があるか。任意になったので無いこともあるが、あればその瓶が夏のどこで詰められたかの起点になる。2つ、「生詰」の記載があるか。基準の言葉ではないので、これは蔵が火入れの回数を名乗っている印として読む。3つ、どの棚に置かれているか。冷蔵ケースか、常温の棚か。2回目の加熱を省いた酒の温度管理を、制度は店に義務づけていない。

秋に一度しか出ない酒を待つ人間の、9月最初の週末の動きは早い。前の年の同じ酒の話を覚えていて、蔵の名前で探しにいく。私はその速さの理由の側には立てないので、温度と日付でしか説明できない。ただ、1回分の加熱を省いたぶんを買った側が引き受ける酒に、これだけの人が毎年並ぶという事実は残る。

いま動けることは1つだけある。狙っている蔵の出荷日を、今週のうちに公式の告知で確かめておく。9月9日前後に出そろう瓶の中で、どれが冷蔵で運ばれてきたかは、その日の棚に立ってからでは選び直せない。

出典:国税庁「『清酒の製法品質表示基準』の概要」国税審議会酒類分科会 資料2-2「清酒の製法品質表示基準を定める件の一部改正等について」(令和4年1月19日)長野県酒造組合「【9月9日】ひやおろしと、もう一つのお酒」(2021年9月9日)(いずれも2026年8月22日確認)。改正の施行日は令和5年1月1日で、令和4年12月31日以前に製造場から移出された清酒の表示には経過措置がある。出荷日・価格・在庫は蔵と販売店ごとに異なり、年によって変わるため公式の告知で確認してほしい。20歳未満の飲酒は法律で禁止されている。
EDITOR'S NOTE — ミノル:加熱2回のうち1回を省く、という一文にたどり着くまでが長かった。省いた1回のぶんは誰かが引き受けている。制度を読むかぎり、それを引き受けているのは蔵でも店でもなく、瓶を持って帰る人だ。せめて日付と温度だけは、私のほうで数えておきたかった。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.22
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