バス停の時刻表を紙で貼り替える手間が、ダイヤ改正の回数を抑えていました
国が選んだ5事業のうち3件は事務の作り替えで、次の締切は9月4日です。
要点:国土交通省は2026年8月6日、令和8年度「『交通空白』解消等リ・デザイン全面展開プロジェクト」の地域交通DX推進タイプ2次公募について、第1次選定の5事業を公表しました。応募締切は9月4日まで延長されています。5事業のうち、住民の乗り物そのものが変わるのは2つで、残る3つは交通事業者の内部の事務を作り替えるものです。ただし、事務は住民の側に跳ね返っています。名鉄バスの申請書には、バス停の時刻表を貼り替える人手が足りないためダイヤ変更の頻度を抑えている、と書かれていました。
選ばれたのは5つ、締切は延びています
まず制度の位置を確かめます。「『交通空白』解消等リ・デザイン全面展開プロジェクト」は、地域交通の維持・活性化を図る事業に国が補助を出す枠で、いくつかのタイプに分かれています。今回の「地域交通DX推進タイプ」は、そのうちデジタル技術を使う取組を対象とするものです。
報道資料の言い方はこうです。「事業者・事業種の連携・協働により複数のモビリティデータの統合及び活用や国の定める標準仕様に基づくシステム統合、標準業務モデルの導入など、デジタル技術を活用した高度サービスの実装を支援しています」。長いので分けます。ばらばらのデータをつなぐこと、国が決めた仕様に合わせてシステムをまとめること、業務のやり方の型を入れること。この3つのどれかに当てはまる事業に金を出す、という意味です。
2次公募の当初の応募締切は令和8年7月2日で、そこまでに届いた案件から5事業が選ばれました。そして同じ資料に、こう添えられています。「なお、本公募は応募締切を令和8年9月4日まで延長しております」。つまりこの記事を読んでいる時点で、まだ開いています。
5つを並べると、2つと3つに分かれます
別紙に載った5事業を、実施地域と何を変えるのかで並べます。
| 事業 | 実施主体 | 地域 | 変わるところ |
|---|---|---|---|
| 地域福祉施設送迎リソースシェア展開事業 | 一般社団法人ソーシャルアクション機構 | 宮城県名取市(一部仙台市) | 介護施設の送迎車を複数施設で共同運行 |
| 会津地域デマンド交通共通予約基盤整備事業 | 会津Samurai MaaSプロジェクト協議会 | 福島県喜多方市・磐梯町 | 別々だったオンデマンド交通の予約を1つのアプリへ |
| 車載デバイスやAI技術を活用した運行系業務システム等の技術検証 | Will Smart・WILLER EXPRESS | 千葉県芝山町ほか(成田シャトル新木場線など) | 安全管理・運行管理・案内の機器とデータを1つに |
| WEBベース計画系・実績集計系クラウドシステムの新規構築 | Will Smart | 長崎市・静岡市 | 路線・ダイヤ・車両・乗務員の割当と実績集計 |
| SIMレスバス停システム導入によるサービス品質向上 | 名鉄バス | 愛知県長久手市 | バス停の時刻表の貼り替えをなくす |
上の2つは、住民や観光客が乗るときの形が変わります。名取市では、介護施設がそれぞれ抱えている送迎車とドライバーを地域の共有資源として扱い、複数の施設で共同送迎を回す。会津では、市町ごとに分かれていたオンデマンド交通の予約窓口を1つにする。どちらも、乗る人の側から見て違いが分かる話です。
下の3つは、バス会社の事務室と車庫の話です。機器が分散していて運用コストが重い、情報提供の作業が特定の人しかできない状態になっている、路線とダイヤと乗務員の割当を紙で回している、時刻表を貼り替えるのに人手がかかる。乗客の目には触れません。
「デジタル技術を活用した高度サービスの実装」という看板から思い浮かべるのは、たぶん上の2件だと思います。ところが実際に選ばれた5事業のうち3件は、下に並べた側でした。
貼り替えの手間が、時刻表そのものを止めていました
ここで、いちばん地味に見える5番目の申請書を読み直します。名鉄バスがSIMレスバス停の課題として書いた一文は、こうでした。
地方のバス会社では、ダイヤ改正・変更に伴う時刻表貼替作業に関わる人的リソースの不足を理由にダイヤ変更の頻度や案内掲示物の更新を抑制し、非効率的な運行を継続しているという課題がある。
言い換えます。ダイヤを直したいのに、直すと全部のバス停の時刻表を貼り替えなければならず、その人手がない。だから直さない。結果として、実態に合わない時刻のまま走り続けている。
これは事務の話ではありません。住民が待つ時間の話です。バスが不便なのは路線が足りないからだと考えがちですが、少なくともこの会社では、ダイヤを実態に合わせる回数そのものが紙の作業量に縛られていました。
SIMレスバス停というのは、バス停の標柱に置いた表示器を、通信回線の契約なしで書き換える仕組みです。近づいてきたバスと標柱のあいだで直接やりとりして表示内容を更新するため、1本ごとに通信費が発生しません。全国の停留所の数を思えば、この「1本あたりの固定費が乗らない」という条件は小さくない差です。調達は小田原機器が担い、8月から9月に要件定義、9月から11月に製造・設置、12月に導入、1月から2月に効果測定という日程が書かれています。
3つが事務の作り替えだった、という数え方は間違っていませんでした。ただ「だから住民には関係がない」という読み方は、この一文で崩れます。
制度が壁になっていると、申請書に書いてあります
もう一つ、そのまま引いておきたい箇所があります。名取市の共同送迎の課題欄です。
法人を跨ぐ共同送迎の継続には有償運行が不可欠だが、現行の道路運送法制度がその障壁となっており、制度面の柔軟な対応が必要
介護施設が自分の利用者を送るぶんには、いまの制度で足ります。ところが複数の法人でまとめて運ぶと、他の法人の利用者を運んだ対価をどう受け取るかという話になり、旅客自動車運送事業の枠に触れます。無償の助け合いのままでは続かないが、有償にすると許可の話になる。この事業は国交省が公開している送迎共同管理のオープンソースを土台に機能を足し、あわせて費用の分け方と保険の特約を検討する、という組み立てになっています。
国の補助に応募する書類に「現行の制度がその障壁となっており」と書いて出し、それが選ばれている。制度を運用する側が、制度の当たっているところを申請書経由で受け取る形になっています。読み方によっては、これがこの枠のいちばん実用的な機能かもしれません。
「つなぐ」ほうは、標準仕様が土台になっています
会津の事業は、この枠が何のためにあるかがいちばん分かりやすい形をしています。会津地域では5つの市町でAIオンデマンド交通が走っていますが、運行エリアごとに予約サービスが分かれていて、自治体ごとにアプリを入れて別々に利用登録をしなければなりません。申請書は、観光客にとって特に煩雑だと書いています。
やることは、共通のAPIの層を1枚つくって、ViaとSpare Labs(のるーと)という別会社のオンデマンド交通の仕組みに、緩くつなぐことです。土台になっているのは国交省の地域交通DX推進プロジェクト(COMmmmONS)が令和7年度に公開した「デマンドバスシステム連携API標準仕様書」。仕様が先にあるので、つなぐたびに一から取り決めをしなくてよい、というのがこの設計の要点です。今回の実施は喜多方市と磐梯町の2市町からで、Via・のるーと以外にも順次対応していくとされています。
取組方針2026は、この分断をこう説明していました。ダイヤ編成、車両運行管理、予約・配車、運賃収受、運行実績管理といった業務が別々のシステムで動き、相互につながっていない。だからデータが事業者の内部でも十分に使われず、地域全体で輸送の需要と余力を見渡すことができない。会津の事業も、長崎・静岡の事業も、この一文への返事にあたります。
続くかどうかを分けるのは、日程の外側です
5事業の日程を並べると、どれも1月から2月の効果測定で終わります。年度の中で始まって年度の中で閉じる形です。ここから先が本題で、実証が終わったあとに何が残るかは事業ごとにかなり違います。
名取市の事業は、共同送迎の運営ノウハウ、標準業務手順、保険スキームを整理して全国の介護施設・自治体へ横展開できるモデルにする、と明記しています。会津は他社のシステムへ順次つないでいくとし、GTFS-flexのオープンデータ化にも触れています。バスの業務システムの2件は、既存システムに標準化の仕様を後から足すのではなく新規に作ることで拡張性を確保し、他の事業者が低コストで導入できるパッケージとして売る、という組み立てです。名鉄バスの1件は、まず長久手市で入れる話にとどまります。
横展開の設計が書かれているかどうかで、この5つはもう一度分かれます。ただし、書かれているから続くとは限りません。ここまでに読んだのは全部、申請の時点の資料です。別紙の冒頭にはこう注記されています。「公募申請時の資料のため、今後、変更の可能性があります」。実証で何が動かなかったかは、いまの資料には載っていません。
9月4日までに、確かめられること
締切が延びたということは、当初の締切までに集まった応募が想定より少なかった可能性があります。ただし国交省は延長の理由を書いていないので、そこは推測にとどめます。事実として言えるのは、9月4日まで開いている、ということだけです。
これから出すことを考える立場なら、選ばれた5つの共通点が手がかりになります。5つとも「国の定める標準仕様」に紐づいていました。デマンドバスシステム連携API標準仕様書、バス業務標準仕様書、乗降実績データ標準仕様書、SIMレスバス停システム技術仕様書、そして標準業務モデル。自前の作り込みを提案するのではなく、すでに公開されている仕様のどれに乗るのかを先に決めた案件が並んでいます。この枠が「デジタル化」ではなく「標準化」の枠だと読むほうが、実態に近いように見えます。
もう一つ。5つのうち4つで、システムを作る会社と実際に走らせる事業者が別に並んでいます。名取市はIT事業者と介護法人2社、会津は協議会とバス・タクシー各社、バスの2件はWill Smartと長崎自動車・しずてつジャストライン・WILLER EXPRESS。座組の欄に運行の当事者が入っていない案件は、この5つには見当たりませんでした。
最後に、確認できなかったことを書いておきます。第1次選定の5事業に対する補助額は、今回の報道資料と別紙のどちらにも記載がありませんでした。したがって、この枠が1件あたりどの規模の話なのかは、この記事では言えません。9月4日以降に出るはずの次の選定で、件数と顔ぶれがどう変わるかを見ることにします。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.23
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。