都市と地方を行き来して暮らす人を後押しする法律から1年2か月で、計画を作った市町村は28。目標は5年で600です。止まっているのは、市役所の手前でした。
要点:都市と地方の2か所に生活拠点を持つ「二地域居住」を促す改正法が令和6年11月1日に施行され、市町村は「特定居住促進計画」を作れるようになりました。国土交通省が令和8年2月に公表した資料によれば、令和7年12月31日時点での作成は28件。目標は施行後5年間で600件です。その28件は、都道府県が先に計画を作った20道府県の中にしか現れていません。一方、市町村長が単独で指定できる支援法人のほうは、都道府県計画のない山形県と鹿児島県でも指定されています。
市町村が二地域居住のために作る計画の名前は、「特定居住促進計画」といいます。国土交通省が令和8年2月にまとめた資料に、その作成数が載っています。令和7年12月31日時点で、28件。
法律が施行されたのは令和6年11月1日ですから、およそ1年2か月での28件ということになります。目標値は、同じ資料にこう書かれています。「特定居住促進計画の作成数:施行後5年間で累計600件」。5年で600なら、単純に割れば1年あたり120件です。
数字だけを並べると、市町村が動いていないように見えます。ただ、28件がどこで出ているのかを見ると、別の絵になりました。
28件は、20の道府県の中だけで起きている
資料には、計画を作った28市町村と、都道府県が作った20の計画が、それぞれ実名で載っています。両方を突き合わせました。
市町村計画のある道府県は19。北海道、宮城、秋田、福島、栃木、新潟、富山、山梨、長野、静岡、三重、京都、和歌山、鳥取、広島、香川、高知、長崎、大分です。この19は、都道府県計画を作った20の中に、ひとつ残らず含まれていました。都道府県計画がない県で市町村が計画を作った例は、28件のうち0件です。
| 段階 | 都道府県の数 | 市町村計画の数 |
|---|---|---|
| 都道府県計画あり・市町村計画あり | 19 | 28件 |
| 都道府県計画あり・市町村計画なし | 1(石川県) | 0件 |
| 都道府県計画なし | 27 | 0件 |
市町村計画を3件持っているのは、北海道(北見市・厚真町・上士幌町)、長野県(塩尻市・白馬村・小布施町)、和歌山県(田辺市・白浜町・すさみ町)の3道県。2件が三重県、鳥取県、高知県。残る13県は1件ずつです。
法律が決めている順番
この偏りは、市町村の熱意の差ではありません。法律の作りがそうなっています。資料の説明文を、そのまま引きます。
都道府県が二地域居住に係る事項を内容に含む広域的地域活性化基盤整備計画を作成したとき、市町村は二地域居住の促進に関する計画(特定居住促進計画)を作成可能
「広域的地域活性化基盤整備計画」は、都道府県が作る計画です。二地域居住のための計画ではなく、もともとは広い範囲の地域を元気にするための基盤整備を書く器で、そこに二地域居住の項目を入れられるようになった、という改正でした。「作成したとき、市町村は……作成可能」。都道府県が先に器を用意しないと、市町村はそもそも計画を作る資格を得られない、という意味です。
したがって、いま計画を作れない市町村の多くは、作らないと決めたわけではありません。順番待ちの前段で止まっています。この制度の進み方を見るときは、市町村の数より先に、都道府県の20という数を見たほうが早いということになります。
石川県だけが、県の計画があって市町村がゼロ
20と19の差、つまり県の計画はあるのに市町村計画がまだ0件なのが、石川県です。令和7年3月28日に県計画を策定しています。
ただし石川県で何も動いていないわけではありません。国交省の別の一覧を見ると、令和6年度補正と令和7年度当初の「二地域居住促進先導的プロジェクト実装事業」の1次公募で、石川県と県内全市町、県宅地建物取引業協会などによる「関係人口・二地域居住者登録システムの登録促進活動と地域仲介役団体の育成支援」が採択されています。珠洲市、中能登町も別枠で採択されていて、中能登町のほうは「被災小規模自治体における二地域居住による復興支援」という書き方でした。計画という書類が出ていないことと、現場が動いていないことは、別の話として読む必要があります。
計画を待たずに指定できるもの
もうひとつの数字が、この制度には用意されています。「特定居住支援法人」の指定です。令和7年12月31日時点で51法人。こちらの目標も、5年で600法人です。
資料は、指定する人をこう書いています。
市町村長は二地域居住促進に関する活動を行うNPO法人、民間企業(例:不動産会社)等を二地域居住等支援法人として指定可能
主語は市町村長です。ここには、都道府県計画を前提とする条件が書かれていません。実際、51法人の指定先を都道府県ごとに見ると、都道府県計画のない山形県(新庄市・鮭川村)と鹿児島県(奄美市)が入っています。器が届く前でも、市町村長の判断で先に手を打った例がある、と読めます。
指定が集中している自治体もありました。鳥取県北栄町は6法人。商工会、人材系の一般社団法人と株式会社、旅先での短期就労を仲介する事業者などが並びます。同町は市町村計画も令和7年6月24日に作っていて、先導的プロジェクトにも採択されています。ひとつの町が制度の3つの入口を全部使った形です。
なお、法人の呼び名は資料の中で2通り出てきます。見出しでは「二地域居住等支援法人」、注記では「※2法律上は『特定居住支援法人』」。調べるときは両方の語で当たったほうが確実です。協議会も同様で、法律上は「特定居住促進協議会」、資料の本文では「二地域居住等促進協議会」と書かれています。
お金は、計画のある区域に先に置かれている
計画が書類仕事で終わらないよう、予算の側にも仕掛けが置かれています。令和8年度当初予算案の一覧を見ると、「特定居住促進計画区域内でのコワーキングスペース等の整備に対する個別補助」(令和6年度創設)に45百万円、「特定居住促進計画に位置づけられた基盤整備の概略設計等について重点的に支援」する官民連携基盤整備推進調査費に332百万円。ほかにも農林水産省・経済産業省・内閣府の交付金に、計画への位置づけを要件や重点化の条件として組み込んだものが並びます。
総務省側では、二地域居住・関係人口の取組に対する特別交付税措置が設けられています。措置率は0.5、コーディネーターは専任で1人あたり500万円、兼任で40万円が対象額として示されています。計画を作った市町村から順に、使える財源が増える構図です。
600という数字を、どこで確かめるか
5年で600件。1年2か月で28件。この差をどう読むかは、来年の集計を待たないと決まりません。都道府県計画が20から増えれば、その下の市町村がまとめて動ける状態になるので、件数は線形には伸びない可能性があります。逆に、都道府県計画の20がしばらく20のままなら、市町村計画は19道府県の中で細かく増えるだけになります。
見ておきたいのは、件数そのものより次の3つだと考えています。都道府県計画が21以上になったか。石川県の市町村計画が0のままか。そして、支援法人を指定した51の市町村のうち、指定だけで止まらずに空き家や仕事のマッチングが動いた自治体がいくつあるか。3つめは資料の数字には出てきません。国交省は関係人口の実態把握のための調査を令和8年度予算案に39百万円で計上しているので、その結果が出たときに突き合わせるつもりです。
制度の初期に出てくる数字は、たいてい熱意の指標ではなく、手続きの順番の指標です。28という数を見て市町村を責める前に、その上に20という数があることを見ておきたいと思いました。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.26
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