シャインマスカットの一粒に、大人が黙り込む瞬間がある。
要点:シャインマスカットは山梨・長野・岡山・山形の4県で全国生産量の約75%を占め、露地栽培の最盛期は8月下旬から10月上旬。東京都中央卸売市場の2025年の月別卸売価格は9月が1kgあたり1,597円と年間で最も安く、4月は13,011円まで上がる。2026年9月4日に確認した通販サイトでは、同じシャインマスカットが1kgあたりおよそ3,200円台から8,000円台で売られていた。中国・韓国への品種流出により、日本側は少なくとも年間約200億円弱の損失が生じているとの試算も、農林水産省が2026年6月に公表している。
シャインマスカットの房を割った途端、黙り込む大人を、私は何度も見てきた。
手を止め、しばらく粒を見つめてから、ようやく口へ運ぶ。
その一粒の値段を、今日ちょうど確かめた——旬のまっただ中にあるぶどう「シャインマスカット」の、卸値と通販の実勢価格を。
山梨・長野・岡山・山形で、全体の四分の三
JAフルーツ山梨によれば、シャインマスカットは山梨県・長野県・岡山県・山形県の4県が「4大産地」とされ、この4県で全国の生産量のおよそ75%を占めるという。中でも山梨県は単独で全国の約30%を占め、生産量日本一の産地とされる。
産地ごとに最盛期はずれる。山梨県は8月下旬から9月下旬、長野県は9月から10月、岡山県は9月、山形県は10月がそれぞれのピークだ。全国でならすと、露地栽培が本格化する8月下旬から10月上旬が最も流通量の多い時期にあたる。いま、ちょうどその只中にいる。
卸値がいちばん下がるのは、9月
東京都中央卸売市場の統計をもとにJAフルーツ山梨が公開している2025年の月別卸売価格(1kgあたり)を見ると、季節による差がはっきり出る。6月〜7月のハウスもの出始めは高値で推移し、8月下旬から露地ものが増えるにつれて値を下げ、9月に年間最安値の1,597円をつける。10月以降はまた値を戻し、11月以降の貯蔵品は再び高値になる。もっとも高いのは4月の13,011円で、これは流通量そのものが少ない時期にあたる。
つまり卸値だけを見れば、いま9月は年間でいちばん安く出回っている時期にあたる。
今日、通販ではいくらか確かめてみた
その卸値が、消費者の手元まで来るといくらになっているのか。2026年9月4日、楽天市場で「シャインマスカット 2kg」を検索してみた。山梨県勝沼産の2kgで7,500円、房を混載した2kgで6,480円、秀品限定・2〜4房の2kgで9,800円、送料無料をうたう2kgで6,666円といった出品が並んでいた(訳あり品は除く)。1kgあたりに換算すると、およそ3,240円から4,900円のあいだに分布している。
JAグループの通販サイト「JAタウン」も確認した。島根県産「うまいもんくらぶ」の1房(600g)が税込4,900円、取扱期間は8月17日から9月下旬予定となっていた(2026年9月4日確認)。1kgに換算すると約8,167円で、贈答用の秀品仕様であることを考えると、この価格帯は納得がいく。
並べると、卸値1,597円に対し、通販の実勢はおよそ3,240円から8,167円。倍率にすると、卸値のおよそ2倍から5倍というところだ。ただしこれは同じ荷口・同じ等級を比べた数字ではない。卸値は市場向けの平均であり、通販の値段は選果・梱包・個別発送・贈答仕様のコストを含んだ、消費者の手元まで届ける値だ。単純に「何倍も抜かれている」と読むための数字ではない。
手間の中身と、選び方
JAフルーツ山梨は、国産のシャインマスカットが割高になる理由として、1房に栄養を集中させる「摘粒」や、美しい房の形を保つ「房づくり」など、1房ずつ手をかけて育てる工程を挙げている。出荷前に糖度を保証する産地もあり、味のばらつきを抑える工程が値段のどこかに乗っている。
店頭で選ぶなら、軸が緑色で太いもの、粒にハリとツヤがあるもの、果皮がやや黄色みを帯びたもの、そして白い粉(ブルーム)が残っているものが、鮮度と甘みの目安になるとされる。
高い理由は、もうひとつある
鈴木憲和農相は2026年6月22日の閣議後会見で、シャインマスカットが中国・韓国に流出したことによる損失額が、少なくとも年間約200億円弱にのぼるとの試算を明らかにした。現地での栽培を正式に許諾していたと仮定し、得られたはずのライセンス料収入を見積もった数字だという。農林水産省によると、2022年時点で中国は約7万3,700ヘクタール、韓国は約6,067ヘクタールでシャインマスカットを栽培しており、両国を合わせると日本の栽培面積のおよそ30倍にあたる。
シャインマスカットは2016年ごろから無断で海外に流出したとされる。育成者権は農研機構が持つが、開発当初に海外で品種登録をしていなかったため、現地での生産や販売を止める権利がない。鈴木農相はこの状況を「深刻な問題」と指摘している。
この数字を「だから国産は高い」と単純に結びつけるつもりはない。ただ、日本の生産者や育成者が本来受け取れたはずの対価の一部が、いま海の向こうに流れているとみられるのは確かだ。産地の名前を選んで買うことは、その手間と権利の両方に、いくらか対価を払うことにつながる一手だとは言えそうだ。
持ち帰れるのはひとつ。旬の最盛期で値が落ち着いているいまが、産地を選んで買うにはいちばん条件のそろった時期だ、ということ。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.04
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