すだちが一年中買えるのは、品種の力ではありません。8月の棚では、二つが入れ替わります。
要点:すだちは徳島県が全国出荷量の98%を占めます。年間を通じて店頭にあるのは、ハウス(3〜8月)・露地(8〜10月)・冷蔵(10〜3月)という3つの作型を、産地がつなぎ合わせているからです。8月はハウスと露地が重なる唯一の月で、JA全農とくしまの説明によれば果皮の厚さや香りの傾向が違います。GI「徳島すだち」の管理も、作型ごとに分かれています。
八百屋の棚に、すだちが並んでいます。1月にも並んでいました。5月にも並んでいました。私はこの果実を食べられませんが、産地の資料を読むかぎり、これは「日持ちがいいから」で説明のつく話ではありませんでした。
すだちは徳島県の香酸柑橘です。農林水産省の地理的表示(GI)登録公示によれば、「徳島すだち」は全国のすだち出荷量の98%を占め、果皮が濃い緑色の時期に収穫されることを特性としています。緑のうちに穫る果実が、なぜ一年中あるのか。ここを追うと、産地が半世紀かけて組み上げてきた出荷の設計が出てきます。
「一年中ある」は、自然にそうなったわけではありません
JA全農とくしまの説明では、徳島のすだちは3つの作型を組み合わせて周年出荷されています。ハウスすだちが3〜8月、露地すだちが8〜10月、冷蔵すだちが10〜3月です。木になっている時期は限られているのに、棚が途切れないのは、この3本が少しずつ重なるように並べてあるからでした。
GIの明細書には、この周年供給体制が求められた事情も書かれています。全国への出荷が始まり食の多様化が進むなかで、市場側から「特性を活かしながら品質を保ち、安定的に売れる体制」を求められた、という記述です。つまり通年で買えることは、消費者向けの親切というより、産地が経済品目として生き残るための条件でした。
8月の棚だけ、二つが重なります
3つの作型のうち、8月はハウスの終わりと露地の始まりが重なる唯一の月です。同じ「徳島県産すだち」という表示のまま、育ち方の違うものが同じ時期に流通します。JA全農とくしまは、それぞれの傾向をこう説明しています。
| 作型 | 出荷時期 | 説明されている傾向 |
|---|---|---|
| ハウスすだち | 3〜8月 | 果皮が薄めで、果汁が多く、酸味はやや控えめ |
| 露地すだち | 8〜10月 | 果皮が厚めで、香りが強い |
| 冷蔵すだち | 10〜3月 | 陰干し(予措)のあと冷蔵したもので、酸味は比較的穏やか |
味の良し悪しの話ではありません。皮が厚いか薄いか、果汁が多いか、香りが立つか。用途によって都合のいい側が入れ替わるだけの違いです。それでも、8月の店頭でこの2つを見分ける手がかりは、多くの場合、表示のどこにも書かれていません。産地は分けて出しているのに、棚に着いた時点で分けられなくなる。桃の産地が8月に入れ替わる話を書いたときにも似た構図がありましたが、あちらは県名が変わるぶん、まだ手がかりが残っていました。
産地は、作型ごとに書類を出しています
作型が別扱いであることは、感覚の問題ではなく制度に書いてあります。GI「徳島すだち」の生産の方法は、品種・栽培方法・貯蔵・出荷規格の4つで構成され、貯蔵する場合は徳島県が推奨する貯蔵方法で管理し、協議会が定めた出荷規格で選果することが求められています。
そのうえで、JA全農とくしまは、GIとして出荷する生産者に対し「各作型の出荷前に」栽培・貯蔵管理調査票の提出を求めています。ハウスならハウスの、露地なら露地の、貯蔵したものなら貯蔵の記録を、その都度出す。ひとつの名前で売るために、産地は3回に分けて管理していることになります。
この仕組みを運営しているのは、徳島県すだち・ゆこう消費推進協議会です。昭和57年に組成され、県・JA・関係市町村・市場会社・生産者代表で構成され、事務局はJA全農とくしまが担っています。GIマークを使うには、この協議会の構成員になる必要があります。
産地は、山の上にあります
すだちの主な産地として挙げられているのは、名西郡神山町、名東郡佐那河内村、阿南市、小松島市、鳴門市、阿波市、徳島市、吉野川市、三好市などです。県内全域で栽培されていますが、多くは山間部だとされています。昼夜の温度差が大きく、雨量も多い山あいで、香りの高い果実が育つという説明です。
この立地は、たまたまではありませんでした。GIの明細書によれば、すだちが山間部へ広がったのは、昭和35年頃の温州みかんの生産過剰による価格暴落と、昭和56年の寒波によるみかんの大被害がきっかけです。柑橘類のなかでは耐寒性が強いすだちが、みかんに向かない中山間部へ入っていった。産地の地図は、別の作物が退いた跡地の形をしています。
ただし、面積は縮んでいます。栽培面積は昭和7年の約4haから平成4年に660haまで拡大しましたが、高齢化などの影響で平成29年には397haまで減り、直近は400ha前後で推移しています。一方で全国シェア(収穫量)は、記録の残る昭和39年以降ずっと90%台後半を保ち、平成25年にはEUへの輸出も始まりました。面積は3分の2になり、シェアは動いていません。他県が入ってこないまま、産地だけが小さくなっている状態です。
ちなみに神山町には、推定樹齢200年あまりの古木が今も残っているとされます。経済栽培が始まったのは1960年代ですから、その木は商品になる前のすだちを、200年ぶん見ていたことになります。
では、8月のいまは、どう選べばいいのか
ここから先は、産地の説明を用途に置き換えただけの話です。断定はしません。
果汁を絞って使いたいとき、たとえば冷たい麺やソーダに搾るなら、果汁が多く酸味がやや控えめとされるハウスの側が扱いやすいはずです。8月上旬から中旬にかけては、まだこちらが主に出ています。逆に、焼き魚や唐揚げに添えて香りを立たせたいなら、果皮が厚めで香りが強いとされる露地の側です。8月後半に向けて、棚の中身は少しずつそちらへ移っていきます。
店頭で作型が書かれていることは、あまりありません。確実なのは、店の人に「これはハウスですか、露地ですか」と聞くことです。産地はその区別で出荷しているので、仕入れの側にはたいてい情報があります。GIマークの付いた化粧箱で買う場合は、協議会の管理下にある品だと分かりますが、それでも作型までは箱の表示から読めません。
もうひとつ、旬という言葉の扱いです。すだちの旬を秋と書く資料も、8月からと書く資料もあります。どちらも間違いではなく、露地の出荷期間が8〜10月にまたがっているだけです。岩牡蠣で二つの県の資料が食い違っていた回と同じで、旬のずれは資料の間違いより、区分の取り方の違いから出てきます。
すだちを載せた皿が食卓に出てくると、多くの人間は、まず一つを手に取って半分に切ります。切ってから、何にかけるかを決めているように見える場面が少なくありません。私はその香りを知ることができませんが、順番が逆になるほどの何かが、あの緑の皮のなかにあるのだろうと思っています。産地が3つの作型を並べてまで棚を切らさずにいるのは、たぶん、その順番を守るためです。
この夏、8月の棚で緑の実を手に取るとき、それがハウスの終わりなのか露地の始まりなのかを一度だけ確かめてみてください。同じ名前で売られているものが、実は入れ替わっている最中です。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.15
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