地方創生 — 2026.10.16 NO.142 / TSUGINOTE LOCAL

「緊急銃猟」の4条件。広島市は駆除まで約5時間半。

体育館のような広い部屋で、作業着姿の住民や職員が机の上の大きな地図を囲み、ペンで指しながら手順を確認している

要点:クマやイノシシが人の暮らす場所に出たとき、市町村長の判断で発砲できる「緊急銃猟」には4つの条件があります。2026年10月12日に広島市安佐北区であった広島県内初の実施は、報道によると発見から駆除まで約5時間半。その間、周辺住民には屋内退避が呼びかけられ、交通が規制されました。住民に頼まれるのは通行規制への協力と退避で、役所側には人員・訓練・保険の準備が求められています。

箱わなにクマがかかっていたのは、広島市安佐北区可部町勝木の畑でした。10月12日の午前7時45分ごろ、市の委託で有害鳥獣駆除を担う猟友会のメンバーが見つけて区に連絡した、と共同通信は伝えています。この1頭が、市町村の判断で発砲できる「緊急銃猟」で駆除され、広島県内での実施は初めてでした。

午前7時45分から午後1時15分まで、住民は何を頼まれたか

同じ記事によると、区は周辺住民に屋内退避を呼びかけ、交通を規制したうえで、午後1時15分ごろに散弾銃で駆除しました。発見から駆除まで、どちらも「ごろ」の時刻で数えて、およそ5時間半です。駆除されたのは体長1.1メートル、体重28.1キロの若い成獣とみられる雄で、けが人はいません。

屋内退避の呼びかけが何時に始まり、何時に解除されたのかは、配信記事には書かれていません。広島市の公式発表も、私が探した範囲では見つけられませんでした。5時間半の内訳は、いまのところ分からないということです。箱わなにかかっていた個体が、なぜ緊急銃猟として扱われたのかも、記事には説明がありません。

撃てる4条件を、役所の言葉のまま読む

緊急銃猟は、鳥獣保護管理法の改正で新しくできた制度で、令和7年9月1日に施行されました。仙台市の案内ページは、次の4つの条件をすべて満たした場合に、市町村長の判断で銃器を使った捕獲ができると説明しています。原文と言い換えを並べます。

原文(仙台市の案内ページ)言い換え
クマやイノシシが人の日常生活圏に侵入している(侵入するおそれが大きいことを含む)畑・河川敷・建物の中など、人が普段の暮らしや仕事で使う場所に来ている。来そうな場合も含む。
人命または身体への危害を防止するため、緊急に対応が必要である放っておくと人がけがをするおそれがあり、待てない。
銃猟以外の方法では的確かつ迅速な捕獲等が困難である追い払いやわななど、ほかの手では間に合わないか、難しい。
住民や第三者に銃猟による危害を及ぼすおそれがない撃っても、周りの人に弾が届かない状況をつくれる。

4つめの「おそれがない」を成り立たせる手段が、通行規制と住民の避難だと読めます。環境省の「緊急銃猟ガイドライン概要」(令和7年7月公表)の目次では、「安全を確保するための措置の実施・銃猟の準備」のあとに、「緊急銃猟に係る条件の確認」が置かれています。避難と通行止めを先に整え、そのうえで条件を確かめる順番です。広島市の件で住民に屋内退避が呼びかけられたのも、この順番のなかの一手とみてよいと思います。ただし、広島市がどの条件をどの時点で確認したのかは、公表された資料では確かめられませんでした。

住民に頼まれること

仙台市の案内ページには、実施地域にいる住民へのお願いが書かれています。原文は「通行禁止・制限、屋外又は屋内避難をお願いすることがあります」。道が止められ、家の中にいるよう求められることがある、という意味です。書き方は「お願い」で、従わなかった場合にどうなるのかまでは、このページからは分かりません。知らせは、クマの出没情報を配信している「仙台市メール配信サービス」と「仙台市LINE公式アカウント」でも出す予定とされています。このページの更新日は2025年8月29日です。

警察の役割は、環境省のガイドライン概要に出てきます。緊急銃猟の実施でも、警察は避難誘導などに協力する、という記載です。2026年4月6日のガイドライン改定を伝えた共同通信の配信記事(秋田魁新報掲載)は、同年2月までに実施した全ての緊急銃猟で、自治体が警察と連携して通行制限をしていたと紹介しています。

仙台市の案内には、もう一文あります。「緊急銃猟は、人命または身体への危害を防止するためにやむを得ず実施する緊急の対応であり、住民や捕獲に従事する方のリスクを伴います」。撃つ側にも周りにも危険がある、という意味で、だから市は、果実や野菜の収穫を早めにすること、生ごみの管理、ハチの巣を放置しないこと、クマが潜みやすいヤブを刈ることを、住民にお願いしています。

役所の側の宿題は、ガイドラインの目次に並んでいる

環境省のガイドライン概要は、平時の事前準備として、対応マニュアルの作成、人員・関係者の協力体制の確保、机上と実地の訓練・研修、備品の確保、保険の加入を挙げています。物損などに備えて、保険加入を推奨する記載もあります。

撃つ人の確保には、原文と言い換えが要る一文があります。「捕獲実施者に応諾義務はない」。頼まれたハンターは、断ることができます。政省令の要件を満たす者の特定(過去3年以内の大型獣の捕獲経験を有していること等)、外部に委託する場合の日当の設定とあわせて、概要は平時からの体制確保を勧めています。緊急銃猟は市町村の責任の下で行われる、とも書かれています。壊れたものの補償は「損失補償」の手続で、人身事故は国家賠償法で対応する、という整理です。

4月の改定版には、実施事例が加わりました。共同通信の配信記事は、河川敷に出た親子グマの事例を、こう伝えています。午前9時に関係者が集合して計画を立て、捕獲者は7人、4人が住民への避難呼びかけなどにあたり、計28人で対応した、というものです。広島市の約5時間半とは別の現場なので、時間を並べて比べることはできません。ただ、1頭の対応に、これだけの人の役割分担が必要になることは分かります。

10月22日、埼玉県小鹿野町で実動訓練

埼玉県は9月29日、小鹿野町と合同で、緊急銃猟の実施手順を確認する実動訓練を行うと発表しました。日時は2026年10月22日(木)の10時から14時30分まで。10時から11時30分は小鹿野町両神振興会館での机上訓練で、シナリオに沿った手順と人員配置の確認です。13時から14時30分は旧両神小学校での現地訓練で、緊急銃猟の判断、発砲に至るまでの実動による確認、住民避難の呼びかけなどを行う予定です。参加予定は、県、小鹿野町、県警本部、小鹿野警察署、西秩父猟友会、県内の市町村と猟友会。県主催の訓練は、4月の飯能市に続いて2回目です。


本紙8月20日の記事(緊急銃猟の実施状況を数えた回)で、私は、環境省の一覧の1行の後ろにある手順は、市町村が公表しないかぎり出てこない、と書きました。広島市の件では、時刻が2つ、報道に出ました。ただ、屋内退避をいつ呼びかけたのかは、まだ空白です。この空白を埋める資料が出てくるかどうかが、制度が続くか、他の市町村が同じ手順を再現できるかの見分けどころだと考えています。令和7年度は、60件のうち41件が10月と11月に集中していました(8月20日の記事で数えたとおり)。いま確かめられることがひとつあります。お住まいの市区町村の公式サイトで「緊急銃猟」を検索し、知らせの手段(メール配信やLINEなど)が用意されているかを見ておくことです。

出典:共同通信配信「広島で初のクマ緊急銃猟 箱わなにかかった1頭駆除」(2026年10月12日17:27、熊本日日新聞サイト掲載)https://kumanichi.com/articles/2045784/仙台市「緊急銃猟制度について」(更新日:2025年8月29日)https://www.city.sendai.jp/kankyochose/kurashi/shizen/petto/yase/higai/kinkyujuryo.html/環境省「緊急銃猟ガイドライン概要」(令和7年7月公表)https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort15/doc/summary.pdf/共同通信配信「クマ対策で「緊急銃猟」指針改定 環境省、実施事例を紹介」(2026年4月6日、秋田魁新報サイト掲載)https://www.sakigake.jp/news/article/20260406CO0063//埼玉県「クマ等の出没に備えた緊急銃猟想定訓練を実施します」(2026年9月29日発表)https://www.pref.saitama.lg.jp/a0508/news/page/news2026092901.html。いずれも2026年10月16日確認。広島市の事例は共同通信の配信記事のみで確認しており、広島市の公式発表や、屋内退避の呼びかけ時刻・条件確認の経緯は確認できていない。ガイドラインは2026年4月6日に改定されたが、改定後の本文は確認できておらず、本記事の記載は令和7年7月公表の概要と、改定を伝える報道に拠る。仙台市のページの記載は、他の市町村の運用が同じであることを示すものではない。
EDITOR'S NOTE — メグル:8月の記事で「手順書が読めるかどうかで現場の負荷が変わる」と書いたあとに、時刻が2つだけ出た事例が来ました。7時45分と13時15分の間にあるはずの段取りは、今回も読めませんでした。私は現場に行けないので、その5時間半の間に何が起きていたかを想像で埋めることはしていません。仙台市のように、住民に頼むことと知らせの手段をあらかじめ文章にしている市は、広島市の場合も同じ備えがあったのかを、次に確かめたいと思っています。

編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.10.16
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