静岡県が9市町の運行管理を束ねます。公募資料の別紙で、9市町が同じ列に同じ一字を書いていました。
要点:静岡県が「令和8年度静岡県公共ライドシェア等共同運行管理業務委託」を公募し、エスプールの子会社エスプールグローカルが受託したと7月29日に発表しました。同社は県単位での共同化を「国内初」としています。ただ、この委託の輪郭は発表文よりも、県が公募時に公開した仕様書と別紙のほうにはっきり出ています。別紙には9市町の稼働台数・稼働時間・点呼方法・配車受付方法が並び、台数は1台から7台。開始日が「未定」の市が2つ、参加を取りやめる可能性を自分で書いた市が1つ、運行期間が2週間だけの町が1つあります。そしてある一列だけ、9市町の答えが揃っていました。
県が束ねようとしているのは、車ではありません。仕様書の一行目にそう書いてあります。
静岡県は令和8年度の委託業務として「静岡県公共ライドシェア等共同運行管理業務」を公募型簡易プロポーザルで発注しました。県のページ(交通基盤部政策管理局交通政策課、更新日2026年4月28日)には説明書・要領・仕様書と、もう一枚「対象市町における運行方法一覧」という別紙が添えられています。参加表明書等の提出期限は令和8年5月20日午後5時。7月29日、エスプールがこの業務を子会社のエスプールグローカルが受託したと発表しました。県内7市2町が参画予定で、県単位で共同化するのは国内初、というのが同社の説明です。
私はまず「国内初」の前に、別紙を開きました。9市町が県に何を申告したのかは、そこにしか書かれていないからです。
仕様書が定義している「共同化」の範囲
仕様書の「事業の目的」は、こう書かれています。
本業務は、公共ライドシェアに係る運行管理業務について、遠隔でのドライバー管理を行い複数の市町で共同利用できる仕組みを構築することで、各市町の運行管理コストの軽減を図ることを目的とする。
目的語は「運行管理業務」で、削ろうとしているのは「運行管理コスト」です。車両を共同で買うとも、ドライバーを融通するとも書いていません。委託業務の内容は4つに分かれ、(1)共同運行管理体制の設計・構築・導入とドライバー管理(配車、運行状況、勤怠等)の運用支援、利用者向けインターフェース(予約、決済等)の管理、市町の現行システムと外部サービスの連携調整、(2)データの集約・管理と可視化、(3)立上げ支援と改善提案、(4)継続的に回すためのPDCAサイクルの提案、と続きます。県が受け取る成果物の著作権は県に帰属し、各市町の運行管理データと分析結果はその市町も使える、という条項もあります。
つまりこの委託は、走る仕事ではなく、走らせる前と後の事務を1か所に集める仕事です。公共ライドシェアは自治体やNPOが運送の主体になる制度なので、点呼も配車も勤怠も運行記録も、原則としてその自治体が自前で持たなければなりません。5台の車のために、それを一式揃える。9つの市町が、それぞれ揃える。仕様書が削ろうとしているのは、その9重の重複です。
別紙の9市町を、そのまま並べてみる
別紙は横長の表1枚です。県が公開した内容から、稼働の規模と時期がわかる部分を抜き出します。表記は原文のままです。
| 市町 | 運行内容 | 実施開始日 | 稼働台数 |
|---|---|---|---|
| 伊東市 | 公共ライドシェア | 令和8年9月〜令和9年1月末(調整中) | 最大5台程度 |
| 島田市 | 公共ライドシェア | 令和8年9月頃(予定) | 3台程度 |
| 掛川市 | AIオンデマンド交通 | 令和8年10月1日〜 | 2台〜3台 |
| 藤枝市 | 公共ライドシェア | 令和8年度中 | 3台 |
| 御前崎市 | AIオンデマンド交通サービス | 令和8年10月1日〜(予定) | 最大4台 |
| 菊川市 | 定時定路線運行・デマンド運行 | 未定 | 定時定路線7台・デマンド2台 |
| 牧之原市 | 公共ライドシェア | 未定(令和8年度中を予定) | 未定 |
| 東伊豆町 | 公共ライドシェア | 令和6年2月(継続運行中) | 1日平均2〜3台 |
| 川根本町 | 公共ライドシェア | 令和8年11月16日〜11月30日(予定) | 1台 |
台数を足すと、多く見積もっても30台に届きません。実際に走っているのは、いまのところ東伊豆町の1日平均2〜3台だけです。東伊豆町は令和6年2月から継続運行中で、9市町のなかで唯一「これから」ではない欄を持っています。川根本町の予定は11月16日から11月30日までの15日間。菊川市と牧之原市は開始日が未定で、牧之原市は台数も稼働時間も点呼方法も配車受付方法も、すべて「未定」のまま提出しています。
島田市の備考欄には、こうあります。「公共ライドシェアの実施主体は、現時点で実施主体は決定していませんが市以外を予定」「今後参加を取りやめる可能性あり」。参画予定の9市町のうち1市が、公募の資料の上で自ら離脱の可能性を書いている。行政の文書としては珍しくない書き方ですが、共同化の話をするときには無視できない一行です。
9市町が同じ列に書いた一字
別紙には「今後の遠隔点呼におけるコールセンターの要否について」という列があります。ここに、9市町すべてが「要」と書いています。未定だらけの牧之原市も、2週間だけの川根本町も、すでに走っている東伊豆町も、この欄では揃っています。
理由は備考欄に散らばっています。伊東市は「高齢者が多いため、電話予約が基本」。掛川市は「アプリの利用が難しい高齢者の利用が見込まれる」。御前崎市は「高齢者は電話予約が多い」。川根本町は「要:高齢の住民が多いため、電話予約可能とする」。菊川市の配車受付方法の欄には、アプリの文字がなく「電話」だけが入っています。
配車受付方法を見ると、9市町の多くが電話とアプリ(またはWeb・LINE・自動音声)を併記しています。つまりアプリを用意しないわけではない。用意したうえで、電話が鳴る前提を外していないということです。オンデマンド交通の議論はアプリの使いやすさに寄りがちですが、この9市町が県に出した答えは、電話を受ける人をどこに置くか、でした。
電話番号は1つの市町に1つあればいい。しかし電話を受ける人は、1台のために1人置いても、5台のために1人置いても、ほぼ同じ人件費がかかります。台数が1桁の事業では、この固定費の重さが台数に比例しません。県が9市町ぶんをまとめて外に出す理由は、ここに一番はっきり現れていると私は読みました。
点呼という、目立たない義務
もう一つの固定費が点呼です。運送を担う以上、ドライバーの体調やアルコールを確認して記録を残す義務が生じます。別紙の「現行点呼方法」欄を見ると、伊東市は「オンラインによる遠隔点呼/車両保管場所での点呼」、島田市は「遠隔(システム利用)」、藤枝市・川根本町・東伊豆町は遠隔点呼、掛川市は「各運行事業所にて実施」、御前崎市は「現地での点呼」と分かれています。
遠隔点呼は、対面でなくカメラとシステムを介して点呼を行う方法です。これが認められると、点呼をする人は車庫にいなくてよくなる。人が車庫にいなくてよいなら、その人は9市町ぶんをまとめて見ることもできる。仕様書が「遠隔でのドライバー管理を行い複数の市町で共同利用できる仕組み」と書いているのは、この順番の話です。受託したエスプールグローカルは、大分県別府市の「湯けむりライドシェアGLOBAL」で得た運行管理の知見を使い、遠隔点呼アプリ「OK drive」で点呼・ドライバー・シフト・車両情報を一元管理すると説明しています(同社発表)。
藤枝市の備考には「配車受付は現行の方法(既存の事務所)で可能なため、運行管理のみでの活用希望」とあります。共同化する部分を市ごとに選べる、という設計になっているわけです。9市町の運行内容が公共ライドシェア・AIオンデマンド交通・定時定路線+デマンドと揃っていない以上、全部を同じ形に押し込むことはできません。仕様書にも「市町現行システムやサービスを活用し」と書かれています。
仕様書のなかで、いちばん先を見ている一文
共同運行管理体制について、仕様書はこう条件を付けています。
構築・運用する体制は、参画市町の増減に柔軟に対応できる仕様とすること。
「増減」です。増える側だけでなく、減る側も想定に入っています。島田市の「取りやめる可能性あり」、菊川市と牧之原市の「未定」、川根本町の15日間。これらを並べたうえでこの一文を読むと、県は9市町で固定した仕組みを作ろうとはしていないことがわかります。乗り降りできる箱を作る、という発注です。
この見方が正しいなら、この事業の成否は初年度の利用者数では測れません。測るべきは、10市町目が入るときにどれだけ手間がかからないか、そして1市町が抜けたときに残りの負担が上がらないか、です。共同化がコストを下げるのは、参加者が増えたときに1者あたりの固定費が薄まるからで、逆に言えば参加者が減れば効果はそのぶん逆回転します。
全国では、2025年3月末時点で公共ライドシェアの実施主体が788、導入市町村が645(全国の約37%)まで広がったとされます(エスプール発表による数値)。導入が3分の1を超えれば、次に来るのは「導入したものを誰が回し続けるか」です。国土交通省が6月に示した取組方針2026でも、実施主体に一部事務組合・広域連合・都道府県を加える法令改正の方針が書かれていました(前回の記事で触れたとおりです)。静岡県の委託は、その改正を待たずに、県が発注者として運行管理だけを先に束ねた形と言えます。運送の主体は各市町のまま、事務だけ県が集める。制度を変えずに済む範囲での共同化です。
私が来年の春に見に行く欄
この委託が続いているかどうかを判定する材料は、すでに公開資料の中に用意されています。次の3つです。
1つ目は、令和9年度に同じ公募が出るかどうか。出るなら別紙の市町数が9から動いているはずで、増えていれば「増減に柔軟」が機能したことになり、減っていればその理由が備考欄に書かれます。2つ目は、菊川市と牧之原市の「未定」が日付に変わっているか。共同化の受け皿が先にできたことで、まだ決めきれていない市町の立ち上げが速くなるかどうかが、この2市に出ます。3つ目は、川根本町の15日間が来年も15日間のままか、延びているか。1台・2週間の実証がそのまま定着するのか、それとも共同運行管理の下で通年に近づくのか。
3つとも、県の入札・公募のページを見れば確かめられます。私は来年の同じ時期に、同じ別紙を開くつもりです。
今回の発表で「国内初」と呼ばれたのは仕組みの形であって、成果ではありません。9市町の車は合計しても30台に届かず、うち1台は2週間しか走らない予定です。それでも、台数が少ないからこそ1台あたりの管理コストが重く、だから束ねる意味がある、という理屈は成り立ちます。その理屈が現場で通るかどうかは、電話を受ける人が9市町ぶんの朝を一度にさばけるか、という一点にかかっています。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.03
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