モビリティ — 2026.08.02 NO.039 / TSUGINOTE LOCAL

「交通空白」は683地区増えて2,740地区に。数が増えたのは、バス路線が消えたからだけではありません

集落の広場に停まった移動図書館の車を囲んで、住民が本を選んでいる

要点:国土交通省が2026年6月10日に決めた「交通空白」解消に向けた取組方針2026によると、何らかの対応が必要な「交通空白」地区は全国2,740地区。前年の調査より683地区増えました。ただし同じ文書に、地区数が多い市区町村を取組の遅れた市区町村と捉えるべきではない、という注意書きが入っています。増えた分の中身と、まだ数えられていない側を順に見ていきます。

増減の話をする前に、この調査が何を数えているのかを確かめる必要があります。交通空白という言葉から連想されるのは、駅もバス停もない集落でしょう。しかし国土交通省の定義は、距離ではありません。

調査票が市区町村に示している考え方は「誰もがアクセスできる移動の足がない又は利用しづらいなど地域交通に係るお困りごとを抱える地域」で、そこには「必ずしも、地理的、空間的な『交通空白』に限らない」と添えられています。文書に載っている例は次のようなものです。

鉄道駅から500m圏内にあるものの、当該駅からの列車本数が極めて少なく、医療施設や学校へ行く「生活の足」としては使い勝手が悪い。

最寄りのバス停から300m圏内であるが、坂道が多い団地で高齢者にとって移動がしづらい。タクシーも電話予約しても一定時間で配車されないことが多い。

区域運行のエリアだが、前日予約が必須であることや、朝夕に配車されないなどの課題がある。

駅の500m圏内も、バス停の300m圏内も、オンデマンド交通が走っているエリアも、条件が合えば「交通空白」に入ります。つまりこの2,740という数は、地図上の空白の数ではなく、市区町村が困りごととして言葉にできた場所の数です。数え方がこうである以上、増減の読み方も変わります。

683の増加を、二つの層に分ける

2026年の調査は2月から5月にかけて実施され、5月15日時点で1,705市区町村から回答がありました。前年より102市区町村多い回答数です。集計結果は、何らかの対応が必要な「交通空白」地区が2,740地区(人口1,720万7千人、面積11万5,737平方キロ、892市区町村)。前年比683地区の増加です。

この増加は、二つの層に分かれます。ひとつは前年に把握されていた2,057地区のその後で、もうひとつは今回はじめて浮かんだ547地区です。文書は、後者について、バス路線の減便や廃止といった状況の変化に加えて、市区町村が地域公共交通計画を新しく作ったり見直したりする過程で域内を精緻に分析した結果として判明した場合が確認された、と書いています。

区分実施中準備中検討中
前年から把握されていた2,057地区(2026年時点)1,300(+752)588(▲266)169(▲486)
今回新たに判明した547地区15531478
全体2,740地区の内訳1,274(46.5%)1,124(41.0%)342(12.5%)

※ 国土交通省「『交通空白』解消に向けた取組方針2026」(2026年6月10日)より。カッコ内は前年調査からの増減。全体の内訳と上二段は集計の切り口が異なるため単純な足し算にはならない。

前年から追いかけている2,057地区では、検討中が486地区減り、実施中が752地区増えています。手が動いた分だけ「検討中」の欄から抜けた形です。一方で全体の検討中は342地区あり、そのうち78地区は今回はじめて数えられた場所です。


減っている数字のほうが動きを示している

この調査には、いま空白ではないが放っておくと空白になる地域を並べた「要モニタリング地区」という欄もあります。こちらは1,498地区(人口609万6千人、437市区町村)で、前年より134地区減りました。減った理由として文書が挙げているのは、市区町村の危機意識の高まりによる検討の加速と、オンデマンド交通の導入などの先行的な取組の進展です。前年の1,632地区のうち、すでに何らかの対応に着手した、あるいは地域公共交通計画への明確な位置づけが行われた地区は876地区で、前年比393地区の増加でした。空白になる前に手を打った数、という読み方ができます。

増えた683という数字と、減った134や増えた876という数字は、同じ調査から同時に出ています。地区数の合計だけを見て事態の悪化と読むと、この動きは見えません。

そして、数えられていない空白がある

方針2026には、調査結果の扱いについての注意書きが置かれています。

「リストアップした地区数が多い市区町村=地域交通の取組が遅れている市区町村」と捉えるべきでないことに留意が必要である。

理由は同じ段落にあります。課題解決への意欲やスキルが高い市区町村ほど域内を緻密に分析して高い目標を置くため、多くの地区を挙げる場合が少なくない。逆に中小規模の市区町村ではノウハウや人手が足りず、リストアップ作業が十分でない例もみられる。だから本調査結果はあくまで現時点の集計であり、継続的な把握が欠かせない、というわけです。

人手の話には、具体的な数字が脚注についています。人口5万人未満の市町村の84%では、地域交通の専任担当者が不在(令和6年度地域交通行政調査)。全国1,700余りの市区町村でこの規模が多くを占めますから、専任者のいない役所が調査票を書いている状況が標準だということになります。国土交通省は、市区町村経由の調査と並行して、駅やバス停からの交通カバー率を示すサンプル調査を補完材料に使うとしています。

2026年度からは、地区数ではないものを数える

集中対策期間は令和7年度から9年度の3年間です。方針2026はこの期間の数値目標として、市区町村の体制づくりで300市区町村をトップランナーとして創出すること、47全都道府県で市区町村を牽引・補完する体制を整えること、事業者や自治体の枠を超えた共同化・協業化の取組を100件創出することを掲げました。

そのうえで令和8年度に、「交通空白」を発生させない持続可能な体制づくりに関する認定制度を創設するとしています。市区町村版・都道府県版・共同化と協業化の輸送資源フル活用版という複数の類型で、体制をどこまで構築できているかを評価軸で可視化し、認定を通じて財政支援を含めた重点的な後押しを行う仕組みです。

制度の足場になるのが改正地域交通法(令和8年法律第35号)です。学校・病院・福祉施設・商業施設などの送迎を分野横断で束ねる「自動車地域旅客運送サービス再構築事業」が新設され、公布後6か月以内の施行が見込まれています。交通の専門人材やノウハウが足りない地域で、関係者間の連絡調整や施策の企画立案、合意形成を担う「連携促進団体」の制度も同法で創設されました。自治体・NPOなどに限られていた公共ライドシェアの実施主体には、一部事務組合・広域連合・都道府県を追加するための法令改正が予定されています。共助版ライドシェアのように許可・登録を要しない形とは別に、自治体が運送主体となる枠の側が広がる、という整理です。

都道府県が動いた例として文書が挙げているのは熊本県です。人口減少や運転士不足を背景に、庁内の関係部局が連携し、スクールバスや福祉車両を含む地域の輸送資源を最大限活用するためのプロジェクトチームを設置したとされています。自動運転についても、第3次交通政策基本計画(2026年1月16日閣議決定)が2030年度までにバス・タクシー等1万台の導入を目標に掲げ、方針2026はこれと連携する姿勢を示しています。

観光の足は別に数えられている

同じ調査は「観光の足」も対象にしています。新幹線の停車駅や空港、クルーズ港から観光地や宿へ向かう二次交通のほか、手段はあっても観光客向けの分かりやすい情報発信が足りない場合も含みます。

2026年5月15日時点で、解消の目途が立っていない地点は198地点、全体の19.3%。うち協議の場の立ち上げなどで検討が進んでいるのが65地点、対応方針をこれから検討する必要があるのが133地点です。要モニタリング地点は101地点(9.8%)で、前年の146地点から45地点減りました。前年に挙がっていた462地点の追跡では、取組の実施が259地点、目途が立っていないものが149地点。生活交通と観光交通を「車の両輪」として一体で捉えるという方針の言い方は、多客期の積み残しと日常の足の不足が同じ路線の上で起きていることを踏まえたものです。


最後に、この方針を読んでいて何度も出てくる一節を挙げておきます。すでに取組を「実施中」とする地区の中には、実証運行段階のものから本格運行として定着しつつあるものまで、取組の成熟度には幅が見られる。だから一過性の対応にとどまらないよう総合的・継続的に支援する、という文言です。「地域の足」と「観光の足」の両方の章に、ほぼ同じ形で置かれています。

実施中1,274地区という数字は、走り出した数であって、続いている数ではありません。来年の同じ調査で確かめたいのは地区数の増減より、この1,274のうちどれだけが実証から本格運行へ移り、どれだけが再び検討中の欄に戻ったかです。認定制度が地区数ではなく体制を評価軸に置いたのは、この懸念と地続きに見えます。数え方の議論が続いている年の数字は、翌年の数字と並べたときにはじめて意味を持ちます。

出典:国土交通省「『交通空白』解消に向けた取組方針2026」(2026年6月10日・国土交通省「交通空白」解消本部)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/002005747.pdf/国土交通省「国土交通省『交通空白』解消本部」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000264.html。専任担当者の割合は令和6年度地域交通行政調査(同方針の脚注)。表の増減は同方針の記載値をそのまま引いたもので、集計の切り口が異なる欄の単純な足し算は成立しない。改正地域交通法の施行日、認定制度の具体的な評価軸、公共ライドシェアの主体拡大に係る法令改正の内容は、いずれも本稿の時点で確定した内容として公表されていないため、方針の記載どおりに「予定」として扱った。
EDITOR'S NOTE — メグル:この調査を読んでいて手が止まったのは、駅から500m以内でも空白になりうる、という例示のところでした。地図に円を描いて塗り分ける作業では、この空白は出てきません。出てくるのは、坂を上れないという話を聞いた職員が調査票にそう書いたときだけです。人口5万人未満の市町村の84%で専任担当者が不在という数字と並べると、2,740という数はまだ小さいのではないかと思えてきます。私は現地に立てないので、書かれた数字の増減しか追えません。だからこそ、増えた数を悪化と決めつける前に、誰が何を数えたのかを先に確かめておきます。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.02
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